【ワタナベシンペイ】“先進的人事”が、いつも新しい採用ツールを探しているワケ
THE 3RD INSIGHT
テクノロジーの進化によって、企業の採用活動は激変した。Wantedly、OpenWork、YOUTRUSTなど、採用市場における情報の非対称性を打破するサービスが次々と登場。企業と人をマッチングさせる道が多様化したことで、先進的な採用人事にとって「テクノロジー」×「マーケティング」のリテラシーは必須となっている。採用広報の第一線で活躍していることで知られるナイルのワタナベシンペイ氏に、転職市場や採用人事に何が起きているのか、採用現場のインサイトを聞いた。
渡邉 慎平(ワタナベ シンペイ)/ナイル株式会社カルチャーデザイン室 マネージャー 慶應義塾大学卒業後、ナイル株式会社(当時ヴォラーレ株式会社)に新卒入社。300社以上のデジタルマーケティング支援に携わったのち、2018年5月に人事へ異動し、採用と広報を所管。現在はオウンドメディアの運営をはじめとする、採用広報と採用マーケティングを担当。
1人に200社がスカウトオファーする時代
──10年前の採用活動は、求人媒体やエージェントで事足りていましたが、今はそれに加えて、LinkedInやYOUTRUST、オウンドメディアなど、多様なツールを使い分ける人事が増えています。
理由は2つあって、1つは圧倒的な“人材不足”により、媒体やエージェントだけでは十分なボリュームの「(候補者の)母集団」を形成できないことです。
もう1つは、どの企業からも求められているエンジニアやデザイナー、マーケター、編集者、PMなど、“ものを作って広める人”が転職市場にほとんどいないこと。
現在、ナイルでは、新規事業の車のサブスクリプションサービスがYoY300%増と急成長しており、今年1月には50億超の資金調達を実施するなど、事業成長に伴って、多様なITスキルをもった人材を年間100人ペースで採用し続けています。
しかし、応募からの採用決定率は1%を切っており、100人から応募があっても1人も採用できないこともあります。
つまり、既存の採用チャネルだけに頼っていては、圧倒的に数が足りない。
自分たちから新しいチャネルにアプローチし、情報感度の高い優秀人材と接点をつくることが、採用人事にとって非常に重要なタスクになってきているんです。
──確かに、転職市場にいない“潜在層”にアプローチできるサービスが増えていますね。
そうですね。本当に優秀な人材はなかなか市場に出てきませんし、そもそも絶対数が足りていないので、潜在層までアプローチしていく必要があります。
たとえば、市場全体でエンジニア人材がどれくらい枯渇しているかというと、「いま日本の全スタートアップが募集しているエンジニアの人数を合計すると、日本に存在するエンジニアの数百倍にもなる」と言われるほどです。
実際、1人のエンジニアが転職媒体に登録すると、エージェントを含めて200社以上からアプローチされるような状況なんですね。
まだ認知度の低いスタートアップ企業は、既存の採用媒体などで募集をかけてもブランド力や報酬面で外資系企業やメガベンチャー企業などと比較されるとどうしても埋もれてしまいます。
転職媒体で埋もれてしまうことに加えて、先程お話した潜在層へのアプローチも行う必要がある。そこで、新しい採用ツールを使う必要が出てくるんです。
具体的には、最近ではビジネスSNSの「YOUTRUST」や、カジュアル面談プラットフォームの「Meety」などを使っているスタートアップが増えています。
これらのツールは、既存の採用媒体と違って、候補者に「自社のミッションやカルチャーで興味を持ってもらう」「社員の人となりに興味を持ってもらう」など、別の文脈でつながりを持つことができます。
こういったツールでの採用は長期戦になりますが、その人の属性やコミュニティ、つながりも分かるので、関係を構築しやすいというメリットもありますよ。
また候補者側についても、現時点でYOUTRUSTやMeetyなどの新しいツールを使っている時点で、その人材の「情報感度の高さ」がある程度保証されるとも考えています。
──採用競争の激化によって、採用活動の前提が変わってきているわけですね。
そうですね。一番大きな変化は、もはや人事担当者だけが採用活動をしても、優秀な人材は採れなくなったということ。
たとえば「エンジニアを採用したい」と思ったとき、人事担当者だけが採用ツールを使って一生懸命訴えかけても、良い反応はあまり見込めません。エンジニアのインサイトに刺さらないわけです。
そこで、候補者と同じ“エンジニア目線”を持った社内のエンジニアに協力してもらって一緒に声をかければ、潜在層にも興味を持ってもらいやすくなる。
このように、人事だけでなく現場も動く「スクラム採用」へのシフトは、もはや採用活動の前提になってきていると思います。
もう1つの変化として、コロナ禍で今までの常識が通用しなくなった部分があります。
これまで選考プロセスのなかで「面談」といえば自社オフィスに来てもらうのが普通で、必ずリアルでの対面が組み込まれていました。
でも、現在では選考プロセスがオンラインだけで完結することも当たり前になってきているし、入社後もリモートで働く人が増えています。
つまり、われわれのように都内にオフィスを構える企業にとっても、採用対象が「都内のオフィスに通える人」から「全国各地に住んでいる人」にまで拡大したんです。
それによって、ますますLinkedInやYOUTRUST、Meetyといった“転職前提ではないサービス”が注目され、今までアプローチできていなかったエリアの人たちとのつながりを求める人事が増えていると感じます。
出会った全ての人と継続的な関係性を築く
──では、もはや転職媒体やエージェントに頼る採用は時代遅れでしょうか?
そんなことはありません。というか「それも大事」なんですよ。
最近はスタートアップの人事担当者が経営者から「エージェント費や媒体費を削減し、採用広報やリファラル採用を中心にしてほしい」と言われるケースは多いと思います。
でも、採用広報やリファラルといった活動は、全部“アドオン”でやらないと意味がないんですよ。
実際、ナイルの事例でいうと、エージェントから紹介されたときは応募しなかったけれど、後日ホームページ経由で自己応募した方がいらっしゃいました。エージェントをやめていたら、そもそも認知されていなかったと思います。
採用広報も同じで、自社のブログ記事があれば応募が増えるわけではなくて、転職媒体で求人を見た人が、「そういえば面白いブログ記事を読んだな」と思い出したら、応募につながるかもしれないですよね。
──いろんな接点が影響し合うのですね。
そうです。しかも、新しい出会いの接点を増やすだけでなく、一度出会った人との継続的なお付き合いも重要です。
仮に1人の募集枠に100人が応募してきた場合、そのタイミングでは99人をお見送りすることになりますが、その99人とは今後もご縁がないわけではありませんよね。
会社のフェーズが変わったり、ポジションが増えたりしたら、その人たちが活躍できる可能性は十分にあります。
だからこそ、全方位的に染み出す採用広報と、転職前提ではないゆるいつながりを築くこと、そして顕在化した転職希望者を募る媒体のすべてが必要になるんです。
──自社の採用に合うサービスと合わないサービスがあると思いますが、ワタナベさんはどう判断していますか?
採用ポジションと雇用形態、求める要件によって、最適なサービスは違うので、それぞれ属性の合う人が集まったサービスを使い分けています。
たとえば、エンジニアとのつながりを作りたければ、Meetyで現場のエンジニアとカジュアル面談をしてもらいますし、バックオフィスのスタッフを採用したければエージェントに依頼するかもしれません。
「オープンな会社」が選ばれる時代に
──人事が多様なサービスを使い分けながら採用活動をできる会社は、外に開けたオープンな会社だと言えると思います。それは働く個人からしても見極め材料になりそうですね。
オープンな会社ほど選ばれる社会になるのは間違いないですし、いくら内に閉じていても情報は外に滲み出ていくと思います。
最近、SNSで顔出し禁止の会社で働いていた人が、今までは外の世界を知らずに働いてきたけれど、外の世界を知ってしまい、自分が属する会社は世の中から遅れていることを認識した、と話していました。
オープンな会社じゃないと、在籍する社員も流出し、新しい人材も採用できないという状態になる可能性が高いでしょう。
──リモートワークができるのに許可しない会社も同じですね。
そうですね。最近、面談をしたエンジニアの方からこんな声を聞きました。
「わたしは“出社したくないからリモートで働きたい”のではありません。でも、リモートワークを認めている会社は、エンジニアがパフォーマンスを発揮できる環境をちゃんと考えてくれている会社だと思う。だから、それが信頼度の判定材料になる」と。
エンジニアだけでなく、デザイナーや編集者、マーケターなども同じで、ものを作って届ける人たちは、パフォーマンスを最大化できる環境を重視するので、柔軟な働き方ができない会社は選ばれなくなるはずです。
「1社しか働いた経験がない」は危険信号?
──いわば「超売り手市場」の現在ですが、それでも選考対象になりにくい人の傾向はありますか?
「十数年、1社でしか勤めたことのない人」は判断が難しくなっていますね。
かつてなら「1社に長く勤めた人」ということで、会社へのコミットメントや継続性がある人というポジティブな評価でしたが、逆に1社経験が長くなりすぎると、その会社での仕事の仕方に最適化されすぎてしまい、転職したときにアンラーニングできるのか、新しい環境に適合できるのかというのは気になります。
1社経験しかなくても、例えば副業経験などで他の会社のカルチャーや仕事の仕方をしっているのであれば全然問題ないと思います。要は、アンラーニングできること、新しい環境に適合できることが重要だということです。
とはいえ、企業としては、長く継続的に働いてくれることは嬉しいことではありますので、活躍人材がこの会社で働き続けたいと思えるようなリテンション施策を行う企業も増えていると思います。
ナイルの場合だと、「異動希望が100%叶う制度」や「週3日以上の勤務で正社員雇用制度」、「社内副業制度」など、活躍している人材がナイルに勤めながらも新しい挑戦を促す機会や環境整備をしています。
軸足はナイルに置きながら、ほかの企業“でも”働く人が増えたら、それはナイルにとっても働く個人にとっても、プラスの要素になると思っています。
──転職希望者に伝えたい「面接時に人事が知りたいこと」を教えてください。
面接で知りたいのはスキルや経験がポジションにマッチするかの定量的な情報と、カルチャーフィットを判断するための定性的な思考です。
定性的な思考はSNSである程度判断できても、ポジションに合うかどうかは職務経歴書をきちんと書いてくれないとわからないですよね。
意外と多いのは、経験してきた業務内容を羅列して成果が書かれていない、書かれていても自分の成果ではないというケース。どんなに小さくても自分が試行錯誤した成果が書かれていると好感を持てます。
転職理由も「やり切ったから」などと変に取り繕うより、「上司との反りが合わなかったから」というのが本当の理由なら、そのまま素直に本音を話してくれた方がうまくいくかもしれません。
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構成:田村朋美
撮影:岡村大輔
取材・編集:呉琢磨