【村上臣】誰もが4回転職する時代。人脈ではなく「ネットワーク」が必須になる
THE 3RD INSIGHT
「誰もが4回転職する時代」といわれる現在。“まだ何者でもない”若きビジネスパーソンは、どのようにキャリアパスを描くべきか。ビジネスSNS「リンクトイン」の日本代表であり、ベストセラー『転職2.0 日本人のキャリアの新・ルール』の著者でもある村上臣氏に、キャリアにおける「ネットワーク」の重要性について聞いた。
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会社名へのこだわりを捨てよ
──転職前提時代に突入した現在。特に若者が理解すべき「キャリア観の転換」のポイントは何だと思いますか?
村上 まず一番に変えないといけないのは、「会社名へのこだわり」ですね。
これからのキャリア構築において、会社名で仕事を選んだり、就職先・転職先を選んだりすることは、極めてリスクが大きい。
「どの会社に入るか」よりも、入社後に「具体的にどんな業務をするのか」「どんな人達と一緒に働くのか」を重視して、働く環境を選ぶことが大切だと思っています。
村上臣 LinkedIn(リンクトイン)日本代表 大学在学中に現・ヤフーCEO 川邊健太郎らとともに有限会社電脳隊を設立。日本のインターネット普及に貢献する。2000 年にその後統合したピー・アイ・エムとヤフーの合併に伴いヤフーに入社。2011 年に一度ヤフーを退職。「ソフトバンクアカデミア」でヤフーの経営体制の問題点を指摘したことを機に、2012 年に弱冠36 歳でヤフーの執行役員兼CMO に就任。600 人の部下を率いて「爆速経営」に寄与。2017 年11 月、LinkedInの日本代表に就任。欧米型の雇用に近づきつつあるこれからの日本において、ビジネスパーソンが生き抜くための「最先端のキャリア・働き方の情報」を日本に届けることを個人のミッションとする。 【LinkedIn】https://www.linkedin.com/in/shin-murakami/
わかりやすいのは「新卒人気企業ランキング」ですね。上位には、いわゆるネームバリューのある大企業がズラリと並んでいます。
まだ仕事の経験がない学生が、知名度に頼るのは一定、仕方がないことです。しかし、人気企業に入社後、「自分は何をするのか」「誰と働くのか」がわからないとしたらマズい。
「配属ガチャ」という言葉もあるように、特に若い世代にとっては、「一緒に働く人たちの性質」が、仕事における成長や、働くことの価値観の形成に強く影響するということを知っておいてほしいと思います。
ブランドで環境を選ぶのではなく、具体的に「何をするのか」「誰と働くのか」が、将来的なキャリアにつながってくる、という視点をもつことが大事です。
これからのキャリアは「ネットワーク」が軸
──村上さんの初の著作「転職2.0」(SBクリエイティブ刊)のなかで、これからのキャリアには「ネットワーク」が重要になると説かれています。
そうですね。古い意味での「人脈」ではなくて、仕事を通じて自分が関わってきた人たちとの「ネットワーク(つながり)」が、これからのキャリア構築においてポイントになると思っています。
仕事を通じて、どんな実績を積み重ねてきたのか、それを証明してくれるのがネットワークですし、将来にどんな可能性を広げられるのか、その振り幅となってくれるのもネットワークです。
──交流会やイベントで名刺交換をたくさんする、みたいな話とは違う?
それは、単なる顔見知りですよね。
ネットワークの原則は、「(真剣に)一緒に作業をしたことがある人」とのつながりです。
作業の対象は、仕事でも趣味でもなんでもいいんです。
協力して何かを真剣にやったことがある相手って、その人の人柄や能力、仕事の進め方のスタイルなど、大体わかるじゃないですか。
もちろん、現職における仕事を通じて、信頼できる仲間を作ることも大切なネットワークになります。
ただし、会社内でいつも同じ人たちとばかり仕事をしているだけでは、ネットワークは広がっていきません。
大事なのは、一緒に作業できる仲間をどれだけ増やせるか、です。
──ネットワークは、キャリア構築においてどんな意味があるのでしょうか。
ひとつは、キャリアの軸を作る意味があります。
自分がどんな仕事をしたいのか悩んでいる人にとっては、いろんな人と関わる経験を増やすことで、「誰と働きたいか」「何をしたいのか」が見えてくるはずです。
もうひとつ、現業で成果を出すうえでも、ネットワークの重要性はますます高まっていきます。
昨今、大企業がベンチャーと協業して新しい価値を生みだす「オープンイノベーション」が盛んに叫ばれています。
大企業でも自前主義が通用しなくなった。これからの時代は、自社にない技術や販路、アイデアなどを持つ他社と協業する動きが加速していくでしょう。
同じことが個人にも言えるようになります。自分の成果に必要なリソースを「社内外から適切に調達できる」ことが、極めて重要な能力になっていくのです。
必要なリソースを適切に調達するためには、ネットワークが必要です。つまり、良いネットワークを持っていて、それを現業のパフォーマンスにつなげられる人が「デキる人」になっていくでしょう。
良いネットワークを構築するメソッド
──良いネットワークはどう作ればいいのでしょうか。
いくつかパターンがあって、一つはその時代のホットな業界にいることが、結果的に良いネットワークになるパターン。
たとえば、10~15年くらい前に興隆したIT系スタートアップ界隈にいた人たちは、ネットワーク化していますよね。新興で元気のいい業界にいると、自動的にネットワークができると思います。
ほかにも、リクルートやインテリジェンスなど流動性の高い会社も、OBOGを含めたネットワークが自然と広がりやすい。
一方、大企業で毎日同じ人と仕事をしている場合は、自分から機会を求めて動くしかありません。
副業でもプロボノでもPTAでもいいから、何かしらのプロジェクトに参加することが必須になっていくでしょう。
例えば、流行りの「サウナ」なんかもそうですよね。一部の人たちの真剣な趣味がプロジェクト化して、ネットワークになり、ビジネスになっていったわけです。
ソフト面のスキルはネットワークが証明する
──中途採用では、候補者の人となりや実績などを関係者に問い合わせる「リファレンスチェック」がありますが、それもネットワークが大きく影響しそうです。
そうですね。採用する側からすると、その人が本当に期待する成果を出せるのかを確認するのは難しい。
だから、候補者と何か一緒に作業をした経験のある人から話を聞くのが合理的です。
リファレンスチェックをする場合、候補者に何人か推薦者を出してもらうのですが、その際に「誰を出せるのか」も割と見られています。
なぜなら、これまでの仕事でどんなネットワークを作ってきたかが証明されるから。
仮に、推薦者の選択肢が上司と同僚しかなくても、上司や同僚からのアツい応援コメントをもらえたらすごくプラスです。それだけ、いい関係を築いて仕事をしてきたという証ですから。
──外のネットワークに限らず、社内でもどんなカードを切れるかで、人となりがわかる。
そうです。自分が持つネットワークからのリファレンスは、ソフト面のスキルの証明になるんです。
資格や実績などのハード面のスキルは目に見えてわかりますが、ソフト面は一緒に働いた人や作業した人じゃないとわからないですよね。
だから、日頃から上司や同僚など、「仲間に貢献しよう」という意識を持って仕事をすることが大切になります。
例えば、自分の担当業務じゃなくても、同僚が困っていたら無理のない範囲で助けてあげるのは、ありがたい貢献ですよね。
その意識を持てば成果も出るようになり、いずれ転職を考えたときに、上司や同僚が推薦者として協力してくれるでしょう。
ネットワークに「ギブ」する意識が大切
──社内も含めて、ネットワークに対して貢献する気持ちが第一なんですね。
まさに、ネットワークに対しては「ギブファースト」の意識が大切です。
僕も、何か手伝いを求められたら積極的に手伝うし、LinkedIn経由で面識のない学生や社会人からキャリア相談を受けることもあります。
特にコロナ禍では、留学予定がなくなったというシリアスな問題を抱える学生が多かったので、Zoomでの1on1もやりました。
キャリア相談は、僕に直接的なメリットはありませんが、これがきっかけでキャリアが開けて、いつか取引先になるかもしれないし、数年後にはスタートアップの社長になっているかもしれないですよね。
とにかくギブの精神でいることが大切です。
──村上さんのように、ギブできるものがない人はどうしたらいいでしょうか。
自分にできることをしようとする前向きな姿勢を持てばいいと思います。
特に若者は、若者であることが強みです。シニア層は若者の考えを常に知りたいから、僕もキャリア相談を受けると、最近使っているアプリや流行りを聞くんですね。
それらは若者からしたら何でもない情報だと思いますが、僕にとっては価値があるんです。
“ダメもと”の精神で「返事があれば超ラッキー」くらいな気持ちで関わっていくのがいいと思います。
僕にDMを送ってきた若者からも、「まさか返事が来ると思いませんでした」と言われました。
『転職2.0 日本人のキャリアの新・ルール』の出版も、面識のなかった編集者から「こんな企画どうでしょう」といういきなりのDMから始まっていますから。
何が価値になるか、誰に価値を見いだされるかは、行動してみなければわかりません。
検索して名前が出ないのは機会損失でしかない
──LinkedInやFacebookといったビジネスSNSの活用も、ネットワーク構築や拡大において大切になりそうです。
そうですね。検索しても名前が出てこないデメリットはよく考えたほうがいいでしょう。
個人でも、ホームページがない会社や、Instagramのアカウントがない飲食店と同じくらいの機会損失になる。
ただ、SNS等で発信することに抵抗がある人もいると思います。
その場合は、誰かの投稿に「いいね」や「コメント」から始めるなど、受け身でもいいから、ネットワークに参加する勇気を持つことが大切です。
──「コメント」から始めるとして、何が発信されていたらギブになりますか?
その人の専門性に関する意見は聞きたいですよね。自分が属する業界の一次情報は、他の業界に属する人からすれば新鮮ですし、発見や驚きにもつながります。
たとえば、物流業界の人は「コロナ禍で物量がものすごく増えている」ことが当たり前でも、業界以外の人は意外と知らないかもしれない。
激しい主張をするのではなく、つながっている人たちが見たときに価値ある情報は何かを考えることにヒントがあると思いますよ。
ここでも大切なのは、「ドヤ顔」ではなく「ギブファースト」。パーソナルな一次情報や経験談が最低限あれば、何かあったときに話を聞いてみようと思うものです。
現業で成果を出すことが、キャリアアップにつながる
──村上さんは、転職するタイミングをどう判断されていますか?
転職のタイミングは、新しいことをやりたくなったとき。現業で望む成果を出せたら、そろそろ次かなと思います。
ただ、ここで重要なのは、自分は成果を出したと思っても、外から「そうでもない」と思われたら通用しないということ。
よく昇進のタイミングが転職のタイミングだと言われますが、それは自分だけでなく社内から認められた証明を持って、社外に挑戦できるからです。
キャリアアップに一番良いのは、現業で成果を出すことだと思いますよ。
──今の環境への不満や不安で転職を考える人が多いように思いますが、それ以前にやることがある。
そうですね。他責思考で愚痴や不満を言う人は、どこに行っても成果を出せません。
与えられた環境でどれだけ成果を出せるか、貢献できるのかに全力投球するのが本筋。現業で成果を出せないのはなぜか、真剣に考えたほうがいいですね。
一方で、上司との相性が悪いなど、現業で成果を出すことが難しい状況にあるなら、副業で成果を出すのも一つの方法です。
その延長線上ならキャリアアップにつながる転職先が見つかるかもしれません。
他責にして何もしない人と、冷静に自分と向き合って行動を起こす人では、明らかに評価は変わります。
自分で何とかしようと行動してきた人なら、たとえうまくいかなかったとしても仕事に対しての誠実さは伝わりますから。
──転職に悩む前に、どれだけ自分が世の中や社会、同僚に貢献できているかに目を向ける必要がある。
それが、ジョブ型の真髄だと思います。今いる場所で求められることに貢献する。その意識を持てば、ネットワークも作れるし、キャリアアップにつながる転職も実現しやすくなるのではないでしょうか。
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編集:呉琢磨
執筆:田村朋美