日本一のヘッドハンターが伝えたい「ベンチャーに挑むべき人材」の条件

終身雇用や年功序列といった日本型雇用は崩壊し、「大手企業に入社すれば一生安泰」という社会は幻になった現在。転職前提時代におけるキャリアは「組織に委ねるもの」から「自ら構築するもの」に変化した。その一例として、一昔前は考えられなかったような「大手企業からベンチャー企業への転職」が定着しつつある。「ベンチャーを一度経験するとキャリアパスが広がる」と語る日本一のヘッドハンター若狭健二氏に、ベンチャーへの転職のメリット・デメリットや、ベンチャーに挑戦すべき人材などを伺った。

20代の若手ほど、大手からベンチャーに転職

──10年前に比べると、大手からベンチャーへの転職はある程度定着してきたと思います。実際の動向はいかがでしょうか。

若狭 まさに、大手からベンチャーへの転職は増えています。

フォルトナ株式会社 フォルトナベンチャーズ 若狭健二
海外大学を卒業後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に入社。株式アナリストとしてキャリアをスタートし、製造業界の業界・企業分析からマクロ経済(主にアジア)のリサーチに従事。その後、バークレイズ証券会社にて、IT・インターネット業界のアナリストとして、ファイナンス、ビジネスモデル、業界・企業分析などの知見を豊富に蓄積。2014年からベンチャー企業向けに特化した人材紹介会社の株式会社プロコミットにて、ベンチャー企業のCxOや経営幹部ポジションの採用支援に従事。ビズリーチ社主催のヘッドハンターサミットにおいて、最優秀賞のヘッドハンター・オブ・ザ・イヤーを2年連続で受賞。2021年5月よりフォルトナ社に参画。

その理由として挙げられるのは、成功するベンチャーが増えたこと。上場する企業も多いですし、時価総額が大手より高いメガベンチャーもありますよね。

社会が大きく変化する中でベンチャーは市民権を得るようになり、「ベンチャー=不安定」といった認識は大きく変化しました。

しかも最近は、大手からベンチャーに転職後、さらに別のベンチャーに転職する人や起業する人、もう1回大手に戻る人など、“次の次”のキャリアパスが生まれています。

──大手企業に戻るのはどういう理由が多いですか?

ネガティブな理由ではなくて、ベンチャーで手にした経験やスキルを大手で生かしたい人がほとんどです。大手企業も、ベンチャーでの経験を持つ人を受け入れたいから、このマッチングは活性化しています。

なぜなら、社会の大きな変化によって、大手企業は既存事業以外の新しい事業の柱を作らざるを得ない状況にあるから。だけど、社内に新規事業を立ち上げられる人がいなければ、他社との協業や投資、外部人材の登用が必要ですよね。

だから、「大手toベンチャーto大手」といったキャリアパスが増えていて、昔のように「1度大手のレールを外れたら2度と戻れない」といった閉ざされたキャリアではなくなりました。

──オープンイノベーションの文脈もあって、大手がベンチャーの人材を必要としている、ということですね。

そうですね。社内で新規事業を立ち上げられる人材を育てるには時間がかかるから、新卒採用のみだった大手も中途採用に力を入れるようになっています。

──実際、大手からベンチャーに転職する人はどういった層なのでしょうか。

年齢層の幅は従来よりも広がってはいますが、20代から30代前半までの方が多い傾向にあります。

新卒で大手に入社したけれど、思った以上にスピード感がない、裁量がないといった課題を感じて転職する人や、若いうちに成長したい人、特定のプロダクトやサービスに関わりたい人などが多いですね。

大手の看板があったから生きていたスキルは、看板がなくなれば使えなくなります。だから、ポテンシャル採用が通用する20代~30代前半ぐらいまでが、動きやすいのだと思います。

大手toベンチャーのメリット・デメリット

──大手からベンチャーへの転職のメリットとデメリットは何だと思いますか?

僕も大手からベンチャーに転職した1人ですが、圧倒的なメリットは裁量が大きいことです。月並みですがこれは本当に大きい。入社すると社歴にほぼ関係なく、裁量を持って自らどんどんチャレンジできるんですよね。

しかもその意思決定の早さは、大手で長く勤めていた人からすると信じられないスピード感かもしれません。

それから、大手での仕事は大きな仕組みの中の一部だから、自分の仕事が社会にどう貢献しているかは見えにくい。でもベンチャーなら、自分の仕事が社会への貢献に直結しやすいので手触り感もあります。

他にも、上が詰まっていないからポジションを得るチャンスがあるし、提案が反映されやすいから自分のやりたい仕事や身につけたい経験・スキルをコントロールしやすい。挙げるとキリがないです(笑)。

一方でデメリットは、ベンチャーはフェーズや環境の変化、経営状況によって事業をピボットしたり、組織を柔軟に変えたりすること。

新規事業のポジションで内定をもらったけれど、入社したら事業が無くなっていたというのは“あるある”で、やりたかったことができなくなる可能性もあります。

加えて、大手に比べるといろんな仕組みやリソースがないから、それを自分たちでゼロから作っていくことを楽しめないと、かなりしんどいでしょうね。

ベンチャーで成長する人の、3つの共通点

──ベンチャーに転職して成長する人の共通点はあるのでしょうか?

3つあって、1つは「謙虚」であること。ベンチャー転職に成功する人は、腰が低い人です。

もともと大企業で働いていた人のなかには、“会社の看板”が悪い意味でのプライドになってしまい、成長のストッパーになってしまうケースがあります。

どれだけ優秀で実績があっても、ベンチャーでは「身1つの自分」が問われます。だからこそ、腰が低い人は周囲に受け入れられやすいし、協力も得やすくなるのです。

2つ目は「変化対応力」です。ベンチャーには大手のようなリソースはないし、環境も整っていません。それでも他責にせず、自分で工夫しながら今までの経験を発揮できる人は強いですね。 そして3つ目は、何でもポジティブに受け取れる人です。仕組みがなくてもリスクがあっても、面白そうだと前のめりになれる人はベンチャーに向いていると思います。

──特に大手の環境で身につけるのが難しいのは何でしょうか。

社内で毎日同じ人たちと同じルーティーンの仕事をしているだけだったら、変化や刺激がないので変化対応力は身につかないと思います。

でも、大手にいながら変化対応力のある人は、週末の時間を使ってベンチャーを手伝うなど、アンテナを張っていろんな情報に触れているんですね。

仕事に限らず、プライベートや趣味の領域でもいいので、いろんな人との接点を持つ努力は今からでもした方がいい。

いろんな仕事の仕方やキャリアを知って、否定せず受け入れられるようになれば、ベンチャーに転職しても違和感なく順応できると思いますよ。

──逆に、ベンチャーに合わない、転職しない方がいいタイプはありますか?

組織の分厚いアセットを活用しながら、新規事業をガンガン立ち上げたい人ですね。

ベンチャーは柱となる事業を作らないといけないし、リソースや資金も限られているから、新規事業をガンガン立ち上げられるわけではありません。

それから、雑多な業務をやりたくないけれど経営に近いポジションを希望する人も難しい。

メガベンチャーや上場企業なら仕組み化されて雑多な業務はないかもしれませんが、経験のない状態でいきなり経営ポジションは非現実的でしょう。

経営にこだわるならアーリーステージのベンチャーの方が可能性はありますが、その場合雑多な業務からは逃れられないです。

今の波に乗らないと、次の波にも乗れない

──大手からベンチャーへの転職は、少なからず勇気がいると思います。そのとき指標となるような、成長するベンチャーの共通点があれば教えてください。

経営者が組織づくりや採用に力を入れている会社です。

急成長を目指すベンチャーにとって「いかに優秀な人を早く集められるか」はとても重要で、最初から採用に力を入れている会社は雪だるま式に優秀な人が集まる傾向があります。

──組織づくりと仲間集めにコミットできる会社は、ビジョンが明確という傾向もありそうです。

そうですね。ビジョンが明確で全社員に浸透していると、全社員がそのビジョン達成に向けて採用にコミットする傾向があるから、組織として強いですね。

一方で、ビジョンが明確でもニーズが限られているようなニッチなビジネスモデルの場合、マネタイズに時間がかかるという課題もあります。

すると、最初はビジョンに共感した仲間を集められても、見合った報酬を得られない時間が長くなれば、組織が崩壊することもある。 地味でも手堅い事業を作っている会社は、時間はかかれど着実に成長するし、資金調達を繰り返して成長曲線を描いていた会社が解散するケースもあります。ビジョンとビジネスの両輪が回っていることはポイントですね。

──これから「アツい市場」はどこでしょうか。

レガシーな業界をDX(デジタルトランスフォーメーション)する領域は、まだまだ伸びるでしょう。この不可逆な流れは変わりません。

特に、コロナ禍が追い風となって、今までは紙とハンコでやりとりされていた契約書や請求書のオンライン化や、リモートワークができるようバックオフィス系のデジタル化も進んでいますよね。

ここ数年で、DX領域のSaaS企業は爆発的に増えたので、どの企業が成功するのかを見極める必要はありますが、今来ているこの波に乗っておくのは、1つの選択肢としてアリだと思います。

今の波に乗っていないと、次の波にも乗れない。それはいつの時代でも共通です。

自分のキャリアは自分でコントロールする

──若狭さんが企業と候補者をマッチングさせるときに大切にしていることを教えてください。

うわべの転職理由でマッチングをしないことです。そもそもなぜ転職をしたいのか、何を叶えたいのかを、過去の経験と思い描く未来を行ったり来たりしながら、掘り下げるようにしています。

その上で、候補になりそうな企業には会ってもらい、その感触を検証しながらチューニングを合わせていく。実際に会ってみると「イメージと違った」「この領域に興味があるかもしれない」といったことが徐々にわかってきます。

そうして、糸を手繰るように本当にやりたいことを言語化しながら、その人の根っこの部分が掴めたら、最適な選択肢が出てきます。

──最初からやりたいことが明確な人は少ないと思います。

そうですね。お金を稼ぐために働くという思考から抜け出せないと、自分が楽しいと思える仕事を選ぶ発想を持てません。

でも「仕事=辛いこと」ではないのだから、とにかくいろんな角度で話を聞きながら、何を楽しいと思うのかを紐解く必要があると思っています。

──大手企業に勤めている人が、若狭さんと話をするうちに、ベンチャーへの転職を考えるようになるきっかけはありますか?

よく、「自分でキャリアをコントロールしたくないですか?」という話をします。

自分でコントロールしたキャリアで失敗したなら納得がいくけれど、大手企業のレールに委ねた状態で失敗したら納得できないですよね。

──誰かに人生を委ねたくない。

誰もがそのことに気づいているけれど、本当に転職して大丈夫なのかと思ってしまうのも理解できます。 だから、大手からベンチャーに転職して合わなかったケースや、大手からベンチャーに転職して起業した人、次のベンチャーに行った人などの事例を伝えるようにしています。

転職する・しないに関係なく、行動を起こすべし

──大手を経験した人がベンチャーに転職することで、キャリアはどう変わると思いますか?

無整備な環境で組織づくりや事業づくりを経験し、リソースや看板がなくても成果を出せるようになると、純粋に自信を持てるようになるんです。しかもその成果は他社からも評価されるから、市場価値も高まる。

だから、次のキャリアに経営に近いポジションを狙えるベンチャーを選んだり、起業したりできるようになるんです。

大きな組織も知っているし、小さな組織や事業が成長する過程で発生する課題もわかるようになるから、キャリアパスは広がります。

──キャリアパスの選択肢を広げるのは、自分の人生を豊かにするために大切なことですね。

そうですね。だから、現状に悶々としていて、ベンチャーで働く友達が楽しそうだと感じるならば、転職をするかどうかは別として転職活動はすべきだと思うんです。

エージェントに相談するといった具体的な行動までいかなくても、情報は積極的に取りに行った方がいいと思います。

ネットで情報を取ってみよう、いろんな人の話を聞いてみようと、積極的に何かしらのアクションを起こせる方は、次のキャリアの選択肢としてベンチャーを考えていいと思いますよ。

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編集:呉琢磨
執筆:田村朋美
撮影:小池大介

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