“複業のプロ”が教える「副業をするべき人」の条件とタイミング

2018年1月、働き方改革の一環として「副業·兼業」が解禁された。当初は人材流出を恐れて副業OKとする企業は少なかったものの、現在は約5割の企業が副業を認めているという(マイナビ調べ)。 ビジネスパーソンにとって一般化してきた「副業」。単なるお小遣い稼ぎではなく、自らのキャリアを広げる手段として副業を考えたとき、どこで、どんな仕事をするべきか。「キャリアを広げる副業」の考え方と実践法について、複業研究家/株式会社HARES代表取締役社長の西村創一朗氏に伺う。

「御恩と奉公」の関係は崩壊。副業禁止はリスクに

─ここ数年で、副業を解禁する企業が増え続けています。そもそも企業が副業をOKにする背景には何があるのでしょうか。 

個人と会社の関係性の変化です。

かつては、副業禁止や長時間労働、単身赴任などで個人の自由を会社に捧げる代わりに、会社は終身雇用や年功賃金で個人を守っていました。

ある意味、「御恩と奉公」が成立していたわけです。

でも、終身雇用が崩壊=御恩がなくなったにも関わらず、企業は20年も30年も個人に「奉公」だけを求め続けてきた。それが限界に達して、副業が解禁されました。

働く人からしても、終身雇用じゃないのに、一つの会社に身も心も捧げる人生は送りたくないですよね。

株式会社HARES代表取締役/複業研究家 西村創一朗
1988年神奈川県生まれ。大学卒業後、2011年に新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・人事採用を歴任。本業の傍ら2015年に株式会社HARESを創業し、仕事、子育て、社外活動などパラレルキャリアの実践者として活動を続けた後、2017年1月に独立。独立後は複業研究家として、働き方改革の専門家として個人・企業向けにコンサルティングを行う。2017年9月〜2018年3月「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(経済産業省)委員を務めた。

─そうですね。一方で、副業に抵抗感のある企業は少なくないと思います。副業を解禁する企業側のメリットは何でしょうか。

副業解禁のメリットは2つあって、一つは社員が本業では得られないスキルや経験、ネットワークを得ることで、長期的に見ればイノベーション創出につながる可能性があること。

もう一つのメリットは、副業を解禁すると採用力が高まることです。裏を返せば、副業を禁止にしていたら優秀な人材を採用できない、あるいは雇用を継続できないことです。

エンジニア、マーケター、デザイナーをはじめ、高い専門性があり、引く手あまたの優秀な人にとって、副業禁止の会社で働くことは収入や経験値を増やす選択肢を失うことになり、デメリットが大きいです。

もちろん、副業禁止でもそれを補うだけの魅力があれば、一部の人は働くかもしれませんが、正直厳しいでしょう。

世の中で求められているデジタル人材ほど、副業ができる環境を求めるので、新卒でも中途でも、採用市場における競争力強化のためには、副業解禁・容認を検討せざるを得ないと思います。

─なるほど、優秀な人ほど企業にロックされるとリスクになる。

副業をすれば年収を200万円でも300万円でも上げられるポテンシャルがあるのに、それができない環境に居続けるのは、相当な覚悟が必要ですよね。よほどその会社に愛と信頼がないと受け入れづらい。

優秀な人を独り占めする考えから、複数の企業でシェアする、“逆”ワークシェアリングの考えにシフトする必要があると思っています。

副業は、自分がやりたいことと本業をつなぐ架け橋

─現在、副業をしている人はほんの一部だと思いますが、どんな人こそ副業をすべきだと思いますか? 

現時点ではエンジニアやデザイナーなど明確なスキルを持っていなくても、副業を通じて専門性を養えると考えれば、副業ができない人はゼロと言い切れます。

ただ、誰もが副業をすべきかというと、必ずしもそうではなくて、人には副業をすべき時期と、そうじゃない時期があるんです。

たとえば、自分の専門性を確立する期間は本業にコミットし、成長角度が緩やかになってきたと感じたら副業でスパイスを加える。それが本業にいい影響を及ぼし始めたら、副業を止めて本業にコミットする。

本業で伸び悩みや行き詰まりを感じている人は、副業が突破口になると思います。

─キャリアの停滞期に別のドアを開ける手法として、副業があるのですね。

そうですね。停滞期だけでなく、自分がやりたいことと本業にギャップがある場合も、副業は架け橋の役割を果たしてくれます。

僕は学生時代に事業をゼロからつくる仕事をしたいと思ってリクルートに入社しました。でも配属されたのは法人営業の部門だったんですね。

当時は、「3年くらい頑張って成果を出して、4年目に新規事業部門に行けたらいいな」と、法人営業にフルコミットしていましたが、あるとき法人営業と新規事業では、求められる能力が全く違うと気づいた。

実際、法人営業で成果を出して、新規事業に異動した人はゼロに近かったんです。

─ルートがなかった。

もはや、封鎖されていました。

そこで、いろんな人に相談して考えた結果、プライベートの時間を使って自分で事業を作ることにしたんです。

経験を積めるのはもちろん、人事から「プライベートの時間を使うくらい新規事業に熱量がある」と認めてもらえるのではないか、と。そんな下心から副業を始めました。

─どんな事業を作ったんですか?

ブログメディアを立ち上げました。記事を更新するたびにSNSでシェアし、上司や人事にアピールしていたら、半年で月間20万PV程度と、個人が運営するメディアとしてはそこそこのボリュームになったんですね。

すると、入社4年目に「新規事業開発に特化した新しい部署を作る。20代の若手で営業実績があり、インターネットビジネスに詳しい人を探していて、君に白羽の矢が立った」と言われました。

僕の下心が叶った瞬間でしたね(笑)。

良い副業に出会うために、ビジネスSNSを活用する

─キャリアを広げるためではなく、お小遣い稼ぎの副業には、どのような印象を持ちますか?

副収入を目的にした副業は、意味がないどころか自分にとってマイナスになる可能性があります。あくまで副業は「自分がレベルアップするためのもの」。

上司に内緒でコソコソとお小遣い稼ぎをするのではなく、「私はこの副業をしています。なぜなら~」と堂々と話せる副業をした方がいいですね。話せない副業なら、すぐにやめた方がいいでしょう。

─レベルアップするには、今あるスキルを生かすか、未経験領域に挑戦するかだと思います。後者の場合、どのように道を切り開くと良いでしょうか。

最初のとっかかりとしては、クラウドソーシング系のサービスで「自分は本当にその仕事に向いているのか」を試してみるのがいいと思います。

ある程度試して、「自分はこの仕事に向いている」と判断できたら、その時点でクラウドソーシング系のサービスの利用は止める。

なぜなら、顔が見えない受発注ではなく、「あなたにお願いしたい」とバイネームで依頼される状態にならないと、スキルも実績も積み上がらないからです。

そこで次に活用をお勧めしたいのが、LinkedInやYOUTRUSTといったビジネスSNS。

この時点では副業の実績がなく、信頼をゼロから積み上げる必要があるので、仕事のつながりを求める人たちとつながって、自分は何が得意で何ができるのかを発信していくのがいいでしょう。

スキルをそのまま生かす「収穫型」、ゼロスタートの「種まき型」

─本業のスキルを生かして、“本業とは違う分野”に挑戦したい場合、どう進めたら良いでしょうか。

まず前提として、副業には「種まき型」と「収穫型」があります。

「種まき型」は種をまいて収穫できるまで半年や1年が必要な、実績がないゼロスタートの副業。「収穫型」は培ってきたスキルや知識を生かし、すぐに成果を出して報酬を得られる副業です。

本業のスキルを生かして別の分野に挑戦する副業は、その中間にあると思うんですね。

たとえば、「BtoB向けプロダクトのマーケティングスキル」を持つ人が、人材·採用領域に興味を持って「人のマーケティングに挑戦したい」と思ったとします。

この場合、今あるスキルですぐに成果を出せるかはわからないですよね。

そこで、「種まき型」よりは短い期間、たとえば1~3ヶ月の間、知り合いの会社等でボランティアもしくは低価格で仕事を請け負ってみるのがいいと思います。そして、成果を出せるとわかったら「収穫型」にシフトする。

最初から「収穫型」で始めてしまって、「できませんでした」では大問題ですから。

─つまり、“自分という土壌”をちゃんと耕して、良い種を撒いて育てていく。

その通りで、そうした副業は必ず本業にも生かされます。

だから、自分の部下やチームメンバーが副業をしていたら、「副業なんてやる時間があったら本業にコミットして」と言うのではなく、「その副業は君にとって焼畑になっていないか」と問いかけて欲しい。

焼畑は土壌を痩せさせるから、ちゃんと耕して種を撒く方が成長できるよ、と。副業の捉え方を軌道修正できれば、おのずと本業のモチベーションやパフォーマンスにも反映されていくはずです。

副業の実績が、次のより良い仕事を呼ぶ

─副業と本業のバランスを取るための指標があれば教えてください。

副業をやりすぎて本業が疎かになる、もしくは健康を害したら本末転倒です。絶対にやってはいけない副業は、睡眠時間を削らないとできない副業。これは原則です。

それから、副業の報酬には「金銭報酬」と「非金銭報酬」があって、後者は「経験報酬」と「感情報酬」からなります。

その複業を通じて、本業では得られないスキルや経験、学びやネットワークが得られ「経験値」が稼げるならば、それ自体が「経験報酬」になります。

もう一方の感情報酬は、その複業を通じて自己実現欲求が満たされるなど、自分の心に喜びが生じること。それ自体も報酬になりえます。

副業を始めた頃は、金銭報酬が少なくても「経験報酬」が多いので、ギブ&テイクが成立しやすいです。

でも、ある程度時間が経つと経験報酬は目減りしていくので、「自分のギブの方が大きい」とギャップを感じるようになるかもしれません。

こうなったら、その副業はやめるか、金銭報酬を上げてもらうか、立ち止まって考えないといけません。

違和感のあるまま続けていたら、「プライベートの時間を使ってまで何をしているんだろう」とメンタルを害し、本業のパフォーマンスにも影響し始めます。

─副業は本業と違って上司がいないから、よりセルフマネジメントが重要になる。

そうです。ただ、セルフマネジメントといっても、独力である必要はまったくありません。

おすすめは、自分を定点観測してくれるメンターを持つこと。自分を客観的に見てくれる第三者に、月1回でもいいから話を聞いてもらうのがいいと思いますよ。

─副業は独立したフリーランスと似ていますね。

まさに、フリーランスの人が当たり前にやっていることを、ビジネスパーソンもできるようになるのが副業。だから小遣い稼ぎではなく、意味ある副業をした方がいいんです。

自分ができることから始めて、新しいテーマや領域に進出しながら、バイネームでいろんなところから声がかかる状態を作っていく。

仕事の実績が、次のより良い仕事を呼ぶような副業をする人が増えれば、日本の未来はもっと良いものになると思っています。

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編集:呉琢磨
執筆:田村朋美
撮影:岡村大輔

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