【岩崎由夏】日本らしくキャリアを作ろう。キャリアSNSで日本の“働く”が変わる

転職、副業(複業)、独立、起業……。働き方が多様化する現在、自分の理想とするキャリアは何なのか、どうすればチャンスや可能性が広がるのか、模索している人も少なくない。そこで、信頼でつながる日本のキャリアSNS『YOUTRUST(ユートラスト)』を運営する岩崎由夏氏に、キャリアSNSを活用した新しいキャリアの築き方について語ってもらった。

これからの時代に欠かせない「つながり」

──「キャリアは自分で築く時代」に、そもそも自分のキャリアをどう考えていけばいいと思いますか?

岩崎 自分のやりたいことが決まっている人は、そこに向かって一直線に走るのがいいと思います。

よく、「いずれ起業したいけど、まずは就職して力をつける」という話を聞きますが、“今”やりたいことは、“今”やった方がいい。

YOUTRUST 代表取締役 岩崎由夏
大阪大学理学部卒業後、2012年DeNAに新卒入社。新卒、中途の採用を担当する。2016年子会社ペロリに出向し、経営企画を担当。「信頼される人が報われる転職市場に」をミッションに掲げ、2017年にYOUTRUSTを設立。2018年4月にスタートした日本のキャリアSNS『YOUTRUST』の利用ユーザーは、累計5万人を超える。

一方、やりたいことがない人は、いつかやりたいことに出会ったときのために、いろんな経験やスキルを身につけられて、巻き込める仲間をたくさん得られるような環境に身を置くのがいいですね。

本当にやりたいこととの出会いは、人生で一度や二度あるかないかの重要な場面。出会ったら絶対に手放しちゃいけないと思うんです。

だから、やりたいことが見つかったときに、自分で実現できるスキルを身につけておくか、協力してくれる仲間をたくさん作っておくことが大切だと思います。

──スキルはもちろん、つながりを持つことも重要。

そうですね。今までは、いかにスキルを身に付けるか、どれだけ自分の“タグ”を増やすかが重視されていました。

もちろん、スキルは大事なのですが、いくらスキルがあっても、自分に声がかかるような「つながり」を持っていなければチャンスは広がりません。

極端な例ですが、卓越した会計スキルを手に入れても、友人がいなかったら「うちの会社の会計を手伝ってくれる?」という連絡が来ることは、まずないですよね。

スキルを手に入れつつ、誰かが困ったときに「助けてほしい」と連絡が来るような「つながり」を持つ。それが、これからの時代はマストになるでしょう。

自分のことを知っている人から誘って欲しい

──つながりを持つことの重要性を感じた原体験はありますか?

前職はDeNAの採用担当だったので、「エンジニアのリファラル採用」をしようと、現場のエンジニアに推薦する人の名前を出してもらったことがありました。

そのとき感じたのが、名前が挙がるごく少数の人たちと、名前が挙がらない大多数の人たちには大きな差があること。

──リファラルで声がかかる人はほんのひと握りですよね。

そうなんです。名前が挙がる人は転職活動をしなくてもいろんなネットワークから声がかかりますが、大多数の人は転職をしようと思ったときに、履歴書や職務経歴書を持って「はじめまして」の自己アピールをして回らないといけない。

それって結構な機会損失だし、そもそも転職活動はすごく面倒くさいですよね。

実は私も転職をしようと思ったとき、履歴書や職務経歴書を書いてエントリーするのが本当に面倒だったんです(笑)。はじめましての会社に自己アピールするくらいなら、私のことを知っている人に誘って欲しいな、と。

だから、Facebookに「岩崎を欲しい会社はありますか?」と投稿することも考えたのですが、大好きなDeNAの人たちに「岩崎が転職しようとしているぞ」とバレてしまう(笑)。

結局、しばらく身動きが取れなくて、どうにか信頼している人にだけ「岩崎を欲しい会社はありますか?」と伝えられないかを考えた結果、「YOUTRUST」を作るに至ったんです。

自分を知っている人から声をかけてもらえる場所があれば、きっと喜ぶ人はたくさんいると思いました。

──リファラル採用では一握りのご縁しか生まれないことと、従来の転職活動の煩わしさから、キャリアSNSの発想につながったのですね。

リファラル採用はすごく素敵な仕組みですが、実際にそれでつむがれているご縁って、転職を考えている潜在層の1割にも満たないと思うんです。

そもそも自分の友人・知人でも、誰がどんな仕事をしているのか思い出せる人の方が少なくて、思い出したとしても「何年も連絡を取っていないのに、怪しまれないかな」と躊躇しますよね。

だけど、インターネット上にこれまでの人生で出会った友人・知人のリストがあって、「〇〇の経験・スキルがある人」でフィルターをかけてリストアップできたら、すごく便利だなと思ったんです。

さらに「転職・副業への意欲の度合い」が可視化されていたら、しばらく連絡を取っていなかった人でも、気兼ねなく声をかけられます。

本当は出会いが生まれるはずだった、埋もれている残り9割のご縁を顕在化し、つなげていく。それが『YOUTRUST』の介在価値だと思っています。

意欲ステータスを上げると、転職や副業が決まる?

──『YOUTRUST』を通じて、転職につながった事例はありますか?

最近かなり増えています。YOUTRUSTでは、転職や副業への意欲を各4段階で表示できるのですが、「ステータスを変えただけですぐに声がかかって転職が決まった」というケースは多いですね。

キャリアSNSは他のSNSではなかなか言えないような、仕事のちょっとした話や自分が感じたことなど、「普段脳内で思っていること」を自由に投稿できるので、ゆるくつながっている人でも、どんな思考の人なのかがわかりやすいんですね。

だから、「この人、うちの会社に合いそう」と思ってつながっていた人が、「積極的に転職先を探している」ステータスに上がれば、遠慮なく声をかけられる。実際、かなりスピーディーに転職が決まるケースが目立っていますよ。

──副業もマッチング事例は多いでしょうか?

多いですね。「意欲を変えたら、その日のうちに副業が決まったよ」と連絡をくれた知人もいますし、営業経験しかなかったけれど「週10時間の副業広報」に採用されてキャリアの幅を広げている方も。

ほかにも、独立したいけど本当にやっていけるのか不安だった方が、副業ステータスを更新したところ、案件がワっと来たそうで。「フリーランスになっても安心してやっていけそうです!」と投稿されていました。

キャリアSNSの本質は、発信ではなくコミュニケーション

──キャリアSNSで転職や副業のハードルがぐんと下がるんですね。一方で、SNSの投稿に苦手意識のある人は、どんな発信から始めたらいいでしょうか。

無理に発信しなくていいと思います。発信するとしても、キャリアSNSは信頼している人とつながっている場なので、不特定多数の人に投稿内容が見られるわけではありません。

だから、「最近悩んでいること」や「今日の気づき」といった、自分の脳内を書き留めるくらいのテンションでいいと思います。それに対して、誰かが反応してくれたらいいな、くらいで。

SNSは「発信」に重きが置かれがちですが、私たちが考えているキャリアSNSの本質は、「コミュニケーション」なんですね。

誰かの投稿を見て何か新しい行動につながったり、誰かの投稿に共感してコメントしたり、個別にチャットでやり取りをしたり。

そういったコミュニケーションを生み出すためには、まずはつながっておくことが大事で、それが自分の可能性を広げるきっかけになると思っています。

──その場にいることが大事。優しいSNSという印象を受けました。

もちろん、運営側としては投稿してくれた方が嬉しいですが(笑)、個別チャットでのコミュニケーションが生まれたら、そこから仕事のご縁が生まれるかもしれないですよね。

そうしたゆるやかな関係性の中でつむがれたご縁こそ、幸せなキャリアにつながると思っています。

口説く採用から、ゆるく関係性を作る採用へ

──新しい転職・副業方法が広がると、人事のあり方も変わる必要があると思います。人事がアップデートするべき点は何でしょうか。

転職市場は「売り手市場」なので、求職者に興味を持ってもらうための工夫は必須です。その際、鍵になるのが、文脈(ストーリー)ある採用をすること。

優秀な人たちの転職を見ていると、「前職の先輩に誘われて、副業をしているうちに本格的に働くことになった」、「知人との飲み会でキャリアの悩みを相談したら意気投合して転職することになった」など、何かしらのストーリーがあります。

むしろ、ストーリーなく突然知らない会社に転職する優秀な人は、ほぼいないと思うんですね。

これから重要になるのは、人事や経営者、現場のメンバーも含めて、そうしたストーリーを作るために、転職を考える前にいかに関係性を作れるか

もう、関係性のない不特定多数の人に対して「弊社の面接を受けてください」という採用スタイルは通用しない世界になると思います。

──ストーリーを作る。

「SNSでつながっていた」「ブログの読者だった」といった関係性でもストーリーは作れますし、実際に転職や副業に至るケースは増えています。

リアルな友達を紹介する「リファラル採用」よりも手軽な、SNSで認識していただけの関係性でも成り立つ「ソーシャルグラフ採用」だと考えるといいと思います。

──人事の仕事も変わりそうですね。

まさに、直接的なリクルーティングよりも、ゆるく愛される状態を作って維持する「PR」に近くなると思います。ガツガツ口説きにいくというより、下心なしに未来の候補者と楽しく付き合っていく。

今後は、「今月3人採用した」リクルーターよりも、「今月は採用が0人だったけど、100人のファンを作った」リクルーターの方が評価されるようになるかもしれません。

それに、従来の履歴書や職務経歴書ベースの採用は、個人視点で考えるとジョブチェンジができないというデメリットもあるんです。一つのスキルを突き詰めたい人は良くても、新しい職種に挑戦したい人は選択肢を得られない。

でも、転職を考えるずっと前から人事と個人の関係性があれば、「あなたのメインキャリアは営業だけど、広報もできると思う。興味ある?」と相談される可能性もありますよね。実際、弊社の広報の前職は、バリバリの営業ですよ。

「今日より明日はもっと良くなる」社会を作るために

──キャリアSNSが広く大衆化された先には、どんな未来が待っていると思いますか。

私たちが目指しているのは、日本で働く皆さんが、幸せに働けることです。

日本の悲観的な未来予測がありますが、私たちはみんなが「今日より明日はもっと良くなる」と思える世界を作りたいし、実際に作れると思っています。

そのときに必要なのが、日本全体の人材流動性を上げること。流動性を上げるのは転職だけでなく、副業や企業内での部署異動も含まれます。こうした人の流動性が上がっていくと、自ずと一人ひとりのキャリアに対する意識が変わっていくはずなんです。

たとえば、「この会社にずっと居られるわけではない」と思う人の自己研鑽と、「この先40年は安泰だ」と思っている人の自己研鑽は明らかに違いますよね。

常に1.2倍の負荷をかけて自己を磨いている人が1億人集まった国と、0.8掛けで磨いている人が1億人集まった国では、国力の差は歴然。だからこそ、個人が自分のキャリアに向き合って、必要な自己研鑽をするようにならないといけないと思うんです。

その際、安易に欧米の真似をするのではなく、日本らしいキャリアの築き方と、日本らしい人材の流動性の上げ方をするべきで、そこに国産のYOUTRUSTが貢献したい。

一人一人が自分の人生やキャリアについて考えるようになり、明日がもっといい日本になると誰もが思えるような社会を、本気で作りたいと思っています。

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執筆:田村朋美
撮影:小池大介