【2021年版 調査】7割が希望する“複業”は、「企業と個人の新しい関係」になれるのか?
THE 3RD SURVEY
言うまでもなく、すでに終身雇用は崩壊した。企業と個人の間にある時間軸はより短くなり、関係性はその時々の互いのメリットに準じたものになりつつある。そんな人材の流動化の極致が「複業」だろう。「複業」は、企業と個人の新しい関係として定着するのか。全国551名を対象にした調査から、雇用の未来を占う。
そもそも「複業」とは何か? 英語にするならば「パラレル・キャリア」。つまり同時並行に複数のキャリアを歩むことを指す。
「副業」が本業とそれ以外を区別するのに対して、「複業」はすべてを並列にとらえる傾向がある。つまりはスタンスの違いであり、同じことをしていても、ある人にとっては「副業」だが、ある人にとっては「複業」の可能性もある。
今回、The 3rd Door編集部は、20〜40代の正社員で、「仕事は好きだ」「仕事はどちらかといえば好きだ」と回答した年収500万円以上の全国551名の会社員(正規雇用)を対象に、複業に関する調査を行った。
どれだけのビジネスパーソンが「複業」を志向しているのか、阻害要因はあるのか。2021年時点での「複業」のリアルとこれからについて考察していく。
「1人1社」の忠誠を誓っているのは4人に1人だけ?
Q.複業をしたいと思っていますか?
今回の調査では、「すでにしている」が14.7%おり、「したい」の割合は59.6%。この結果から、複業への関心を持っている人は74.3%に及ぶことがわかった。
逆に複業を「しようとは思わない」という回答は、全体の約4分の1である25.8%にとどまった。
極端な言い方をすれば、4人で社内会議をしていたら、1人1社という形での忠誠を誓っているのは1人だけということになる。
企業のマネジメント層や人事部門は、チームアップや採用の施策を考える際に、まずこの事実を念頭におくべきだろう。
複業をする人は、転職もしてしまうのか
Q.複業を「したい」と思った理由
ではなぜ、これほど多くの人が複業に興味を示しているのか? 理由の上位は、「収入を上げたい」(73.1%)、「生活を充実させたい」(45.2%)、「自分の可能性を広げたい」(41.6%)となった。
収入アップという実益的な目的と、自己実現といった目的の両側面が挙げられたといえるだろう。
現業に対して「お金は良いけど、やりがいがない」「やりがいはあるけど、お金がない」という印象を持っている層が、その埋め合わせのために複業を志向しているのかもしれない。
さらに、「スキルアップを図りたい」(37.2%)や「異なる業種・領域への関心」(30.1%)といった項目も3割以上の人に選ばれており、今後のキャリアに複業を生かしたいという考えも読み取れる。
実際に、複業意向×転職意向を掛け合わせて傾向を検証したところ、複業に対して積極的な層は、転職に対しても積極的であることがわかった。
こうした傾向の裏には、「まずは複業で試してから転職しよう」と考えているケースもあるだろう。
ただし、複業=転職と考えて、「複業禁止」という形で転職を防止しようとするのは性急だ。
「今の会社にできる限りいたい」人の中にも、「今後復業をしたい人」が一定数いる。
複業を「本業のスパイス」として考えている人がいることを示しており、そういった人にとっては、むしろ複業があることで「転職をせずに不満を解消しよう」という考えにつながるかもしれない。
複業時代の到来を阻む壁
Q.複業がしたいけれどできない理由
「複業をしたいけれどしていない人」は、どのような点に壁を感じているのだろうか。その理由を尋ねたところ、約半数の49.4%が「会社に複業の制度がない」と回答。続いて、「今の仕事が忙しくて時間がない」が31.1%にのぼった。
また、「探し方がわからない」という人も27.1%いることがわかった。すでに複業を前提とした人材マッチングサービスも存在するが、複業の情報は需要に対してまだ供給が追いついておらず、今後一層求められるだろう。
複業がスタンダードになる時代
今回の調査は、企業で働く個人を対象にしたものだ。個人の目線で語るならば、その多くが複業に興味を示しており、複業がスタンダードになる可能性もあり得るだろう。
人材の流動化が進む中で、個人のキャリア形成には、社内だけでなくさまざまなシーンで通用するスキルと経験が求められる。複業は、そういった社内では得られない知識・スキル・経験を獲得するチャンスだと捉えられる。
また、従業員が自主的に成長していく機会と捉えれば、企業にとってもメリットのある話だ。社内のスキルと経験だけでは生まれないアイデアや実行力を複業人材がもたらしてくれるということもあるだろう。
今後、個人のキャリアの観点からも、会社経営の観点からも複業が一層広がっていくことを期待したい。