【UPSIDER水野】スキルやキャリア、強みが正反対の「最強の相棒」を見つけるまで

資金調達の仕組みが整ったことで起業のハードルが下がったとはいえ、誰もが一人で大きなビジョンを描いて事業を立ち上げ、大きな会社に成長させていけるわけではない。強烈にやりたい事業や、どうしても解決したい社会課題があれば、共感する仲間が集まるかもしれないが、それも簡単なことではないだろう。法人カード『UPSIDER』とビジネスあと払いサービス『支払い.com』を提供している株式会社UPSIDER共同代表の水野智規氏は、UPSIDER創業前に一人で別の会社を起業したが限界を感じ、大きなビジョンを描くために自らと補完関係になれる相棒を探し、ユニコーン候補となる会社を作った。具体的にどのような経験を経て相棒探しをしたのだろうか。話を伺った。

起業して、一人では大きな会社を作れないと確信

──水野さんがビジネスパートナーとなる「相棒」を見つけようと思ったきっかけを教えてください。

サラリーマンをやめて一度起業したものの、自分一人では大きなビジョンを描けないし、成長する大きな会社は作れないと、起業後の数ヶ月で悟ったからです。

株式会社UPSIDER 代表取締役社長 水野智規
アビームコンサルティング株式会社にて、金融機関のインフラの設計・開発エンジニアとしてキャリアをスタート。その後、株式会社ユーザベースにて、NewsPicksの立ち上げに参画した後、グループ全体のマーケティング責任者を務める。2018年に共同代表の宮城徹氏と共に株式会社UPSIDERを創業。

──もともと、やりたい事業があって起業したのですか?

いえ、実は仲間とミャンマーに行って、みんなで会社を作る計画があったんです。だから勤めていたユーザベースを退職して準備をしていたのですが、いろいろあってミャンマー行きが頓挫したんですね。

退職前ならそのままユーザベースで働いていたと思いますが、すでに退職していたので何か始めないと僕の収入はない。

そこで個人事業主として、マーケティングのスキルを生かしたコンサルや、エンジニアのスキルを生かした開発受託など、今までのスキルと人脈を駆使して売り上げを作り、その後に法人登記しました。

でも、それなりに売り上げを出せるようになったら、そこで満足してしまって……。

このままダラダラと時間を過ごすために大好きなユーザベースを辞めたわけではないと危機感を持つようになり、「35歳までにビジョンのある会社を作れなかったら、もう一回会社員に戻ろう」と期限を決めました。

──それが理由で、相棒を探し始めた。

いえ、それより大きな理由は、起業して自分にできないことが明確になったからです。

僕はありがたいことに、ユーザベースで本当に優秀で多様なバックグラウンドを持つ人たちに囲まれて仕事をしていました。その優秀な人たちの役割を僕一人で担えるはずもないことを、起業して目の当たりにしたんです。

僕が苦手とする資金調達やバックオフィス業務、営業など、あらゆる領域で優秀な人はたくさんいます。だから、徹底的に自分と向き合って得意と苦手を洗い出し、僕と補完関係になれるような優秀な相棒探しを始めました。

相棒探し、4つの軸

──具体的に、どのように相棒を探したのでしょうか?

とにかく素敵な人に会いました。まずは知り合いからスタートし、そこから人づてで数百人の人と話をしましたね。

──どんな軸で探していたのですか?

4つあって、1つはダメなところが多い僕を許容してくれる人(笑)。朝が弱いので遅刻しても許容してくれるような人が理想でした。2つ目は、僕とキャリアもスキルも被らない人。バックグラウンドが多様なチームを作るには、それは必要不可欠だと思いました。

3つ目は、価値観が似ていること。僕は起業後の約2年間、知り合いのVCや経営者に壁打ちをしてもらって、自分は誰のためなら頑張れるのかを探りました。

その結果わかったのは、挑戦者の役に立つ仕事をしたいこと。役に立つために自分もリスクを取り、歯を食いしばって大きく勝ちたい。そんな価値観に共感する人を探しました。

そして4つ目は、自分より圧倒的にイケている人です。これは主観ですが(笑)。

──VCや経営者と壁打ちをして、自らを見つめ直したのですね。

そうです。立ち上げた会社の経営をしつつ、休日のほとんどを壁打ちに費やしていました。

もともとスタートアップの経営者やVCに知り合いや友人がたくさんいたこともありますが、リスクを取って頑張ろうともがいている僕に、いろんな人が手を差し伸べてくれました。本当に感謝しかありません。

──VCと壁打ちをしたくても、パイプがないと難しいと思います。水野さんはその環境をどう作ってきたのでしょうか。

要因は2つあると思っていて、1つはコツコツと実績を作っていたことです。僕はユーザベースでマーケティングの責任者を任されていたし、経済メディア「NewsPicks」の立ち上げに参画した実績がありました。

それは一朝一夕で築いた実績ではなくて、多様な能力を持った優秀な人たちに助けてもらいながら、地道にスキルや経験を積んだ結果です。一人でなんでもできる人には必要ないかもしれませんが、周りに助けてもらう必要がある人は今いる環境でちゃんと実績を積むのが前提になると思います。

もう一つは、すでに会社員を辞めていたことだと思います。当時、会社員を辞めていない状態だったら誰も話を聞いてくれなかったと思います。

──会社の看板を外して一歩踏み出していたから、話を聞いてもらえた。

そうですね。実績を積んだ上で、リスクを取って外に飛び出したけれど、いろんな要因からうまくいっていなかった。だから、時間を使ってくれたのだと思っています。

人とのご縁から、最強の相棒に出会う

──その中で出会ったのが、共同経営者となる宮城徹氏。

そうです。当時、仲良くさせていただいていた取引先の方から、プライベートのホームパーティーに誘われたことがきっかけで、偶然宮城と出会いました。顔つきや立ち振る舞い、話し方などから「この人は成功する人だ」と思いましたね。

──そこからお付き合いが始まったのでしょうか?

いえ、宮城はマッキンゼー・アンド・カンパニーのロンドン支社に行くことが決まっていたので、「一緒に起業しよう」とは言えませんでした。実際、すぐにロンドンに行ったので連絡を取り合うことはなかったのですが、約1年後に宮城から電話があったんです。

「自分で起業するか、コンサル出身の友人が創業した会社の役員になるか悩んでいる」、と。

──願ってもないチャンス。

宮城は今まで外資コンサルや外資系投資銀行、大手企業の人とは関わりがあっても、スタートアップの人との絡みが少なかったと思うんです。だから、スタートアップ経験者として僕を思い出し、相談してくれたのだと思います。

そこで、「宮城さんは人が立ち上げた会社の役員になるより、社長として自分で会社を作るべき。僕は宮城さんが社長の会社を一緒に立ち上げたい」と提案しました。

すぐに話がまとまったわけではありませんが、その後も日本とロンドンで連絡を取り合い、半年後に共同創業することが決まりました。

──宮城さんは、水野さんの4つの軸にフィットしていたのでしょうか?

こんなに合致する人はいないと思います。

バックグラウンドが全く違うから、強みもスキルも人脈も違う上に、僕を許容してくれる懐の広さがあり、似た価値観を持っていて、とにかく優秀でイケていた。宮城が社長になれば、どんな事業でも勝てると思い、2018年3月に一人で作った会社を閉じました。

仲間探しから生まれた、事業の種

──現在UPSIDERは法人カードを提供するなど、BtoBビジネスの金融プラットフォームを目指していますが、最初からその事業構想はあったのでしょうか?

いえ、何も決まっていませんでした。ただ、宮城のバックグラウンドが金融で、僕もユーザベースで経済や金融情報を扱っていたことから、金融領域で挑戦者の役に立つ事業を考えるようになりました。

ざっくりと方向性が決まってからは、宮城の人脈で金融領域の人と会うようになり、あるときカード会社の意思決定者と会う機会を得られたんです。

明確な事業計画はないものの、金融領域で困っている挑戦者や、資金が足りないスタートアップの役に立ちたいと話したところ、「ぜひやりましょう」と言っていただけたのが、UPSIDERの始まりです。

──カード会社の方には何が刺さったのだと思いますか?

事業内容ではなくて、マッキンゼー・アンド・カンパニーのロンドン支社出身の宮城と、ユーザベース出身の僕が捨て身でやってきて、「カード事業をやりたい」と言うから、それに賭けてくれたのだと思います。

感覚としては僕が相棒を探していたときと変わらなくて、宮城が何もない僕との共同創業を決めてくれたのと同じように、カード会社は何もない僕らのお取引先という仲間になってくれました。

──そこで事業内容が決まったのですね。

そうです。落ちてきたボールやご縁を全力でつかんできた結果、事業になった。最初から計画を練って始めたのではなくて、一緒にやりたい仲間を探したら事業が生まれました。

挑戦者を支える世界的な金融プラットフォームを創る

──あらためて、UPSIDERの事業内容を教えてください。

「挑戦者を支える世界的な金融プラットフォームを創る」をミッションに、成長企業向けの法人カード「UPSIDER」と、ビジネスあと払いサービス「支払い.com」を提供しています。

法人カード「UPSIDER」が解決するのは、特にスタートアップが抱えているカードの利用限度額の低さや、限度額が低いがゆえに複数カードを契約することで生じる煩雑な会計業務、カード利用における複雑な管理といった課題です。

スタートアップでも最大1億円以上の利用限度額を提供しており、発行手数料や年会費は無料で、利用用途に合わせてカードは何枚でも発行可能。

それぞれのカードごとに決済できる利用先や限度額も決められるので、経理業務は圧倒的にラクになります。

また、2022年4月からスタートした新規事業「支払い.com」は、請求書や口座振込の支払いをカード決済にすることで、支払いを最長60日後まで先延ばしできるサービスです。

これにより実現するのは、資金繰りを改善し、借りずに事業を成長させられること。株式会社クレディセゾンと共同運営しており、支払いは支払い.comが代行しています。

──2018年に創業後、2020年にサービスをリリースして2年ですが、創業から累計で約200億円を調達するなど、爆速成長をしています。その理由は何でしょうか?

相当なリスクを取っているので、ヒリヒリする瞬間はたくさんありますし、事業の難易度も高いのですが、そのぶんペインが深かったこと。

だからUPSIDERに賭けてくれる投資家が多く、導入したお客様の口コミや紹介で導入社数も増加し続けているのが爆速成長の理由です。本当に皆さんのおかげだと思っています。

2022年9月現在、導入社数は5000社を超え、利用継続率は99%、累計カード決済額は500億円以上で、昨年の成長率は10倍以上でした。

リスクを取って、挑戦者と仲間に

──創業から4年でユニコーン候補と言われるようになったUPSIDER。今後はどのような展開を考えていますか?

目指しているのはミッション通り、「挑戦者を支える世界的な金融プラットフォームを創る」ことです。

まずは2023年中に数百人〜1000人規模の会社にして、BtoBビジネスにおける「お金」の流れ全般にサービスを提供し、ゆくゆくはお金に関するお困りごと全てを解決する世界的な金融プラットフォームになりたいと考えています。

それを本気で実現させるために、僕らは単にツールを売るのではなく、挑戦者と一緒にリスクを背負い、仲間として伴走しています。なぜなら、リスクを取っていない相手に対して、背中を預けられないと思うから。

宮城と出会い、UPSIDERを創業できたのも、最初に僕がリスクを取っていたからこそ。だからリスクを取り続けることで挑戦者を仲間にしながら、大きな成功を実現させたいと思っています。

──水野さん個人としては、これからの人生をどう考えていますか?

今はUPSIDERを成功させることしか考えていません。いわば、UPSIDERに捧げる人生です。

宮城も取引先もメンバーも、プロダクトも何もないゼロの状態から仲間になってくれたから、成功しないといけないし、成功することで恩返しをしなければいけない。

すでにこれだけ多くのチャンスをいただき、一人ではできなかったことを実現させられているので、成功してみんなで喜びたいし、本当に挑戦者の役に立てる存在になりたいと思っています。

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編集・執筆:田村朋美
撮影:小池大介