【佐々木紀彦】40代起業家を作った、4つのキャリアステップ

Z世代の起業家に注目が集まる一方で、現在増加しつつあるのが30代、40代の起業家だ。サラリーマンとしてさまざまな経験を積み、スキルや人脈を持った上での起業のため、事業の成功確度は高いと言えそうだ。ビジネスメディア「PIVOT」を創業した佐々木紀彦氏も40代起業家を代表する一人。佐々木氏は、どのようなキャリアステップを経て40代起業に至ったのか。また、起業してどのような社会を作りたいのか、話を伺った。

出版は、個人のIPO

──佐々木さんは40代の起業家として、経済コンテンツに特化した新メディア「PIVOT」を立ち上げました。もともと「いずれは起業したい」と考えていたのでしょうか?

いえ、まったく考えていませんでした。私はジャーナリストとして独立する、もしくは政治家になるなど、“自分の名前”で勝負できるプロフェッショナルになりたいと考えていたんです。

だから、ファーストキャリアに選んだのは東洋経済新報社の記者ですし、起業して仲間と一緒に事業を作っていこうとは考えていませんでした。

PIVOT株式会社 CEO 佐々木紀彦
東洋経済オンライン編集長を経てNewsPicks初代編集長に。動画プロデュースを手がけるNewsPicks Studiosの初代CEOも務める。スタンフォード大学大学院で修士号取得。著書に『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』『日本3.0』『編集思考』『起業のすすめ』。

──それが起業に至ったのは、どういった経緯があったのでしょうか?

最初の大きな意思決定は、28歳から30歳まで東洋経済新報社を休職して、スタンフォード大学大学院に留学したことです。きっかけは、もっと広い世界を見たい、世界の同世代が何を考えているのかを知りたいと思ったこと。

実際、この意思決定は人生の大きなターニングポイントになりました。留学は自分を見つめ直す時間になり、「私がやりたいのは記者ではない。いろんな人と大きな企画を作り、編集長としてコンテンツをプロデュースしたい」と気づいたんです。

そこで、記者・佐々木紀彦の集大成として、留学中に学んだことや感じたことを日々書き留めて、帰国後に一冊の書籍を出版しました。なぜなら、出版は“個人のIPO(上場)”だと思ったから。

──出版は個人のIPO。

メディアの記者として書く記事は、それがいくら読まれたとしても私の名前は認識されません。一方で本は、佐々木紀彦の名前で世に出すものですよね。

結果、出版した書籍が約5万部のベストセラーになり、一気にサラリーマンの殻が破れて“個の覚醒”につながりました。

意思決定の裁量を増やすキャリアステップ

──個として覚醒したことが、次のキャリアである「編集長」を引き寄せたのでしょうか。

そうですね。私が編集長になりたいと思ったのは、リーダーとして“自分で決める立場”に挑戦したいと思ったからです。つまり、記者にはない意思決定の裁量が欲しかった。

そこで上司に「東洋経済オンラインをリニューアルして、大きく成長させたい」と直談判し、編集長に起用してもらいました。

──まさに有言実行で、リニューアル後は月間PVを約10倍に伸ばしています。その後、経済メディア「NewsPicks」に転職した背景には、どんな意思決定があったのでしょうか?

次は、経営にも挑戦したいと思ったんです。

私のキャリアの1stステップである記者は「サラリーマン・クリエイター」で、サラリーマンとして自分の役割を果たすのみでした。それが2ndステップの東洋経済オンラインの編集長、つまり「管理職・クリエイター」になると、圧倒的に裁量が増えたんですね。

裁量を与えられると「もっと自分で決めたい」「経営にも関与したい」という欲が出て、3rdステップとしてNewsPicksに転職し、「経営陣・クリエイター」になりました。

当時のNewsPicksは立ち上がったばかりの無名のメディアでしたが、執行役員かつ初代編集長としてオファーをいただいたので、チャレンジする以外の道は思い浮かばなかったです。

──意思決定の裁量を増やしていくのが、佐々木さんのキャリアステップ。だから、次のキャリアとして選んだのが起業だったのですね。

そうです。NewsPicksでは編集長だけでなく、新しいメディアや子会社の立ち上げなど、さまざまな経験を積みました。ただ、私はオーナーではないので、すべての決定権があるわけではありません。

そこで、4thステップに起業を選んで「オーナー社長・クリエイター」になり、クリエイターが主役のコンテンツ・ドリブンな会社、PIVOTを作りました。

40代での起業は成功確率が高い

──40代での起業に不安はありませんでしたか?

全くなかったです。今は資金調達の環境が整っているから、自分で借金を背負うリスクもありません。事業をいかにして成功させるかを考えるだけなので、不安もリスクもなかったです。

むしろ、40歳まで積み重ねてきたスキルや人脈という“資産”がある状態での起業なので、20代での起業よりも成功確度が高いのではないかと考えています。

実際初期メンバーも、これまでの人脈等で30代から40代前半のスキルやマネジメント力を既に備えた人が集まってくれたため、良いチームができつつあると思いますよ。

──どんなカルチャーの組織を作っているのでしょうか?

東洋経済オンラインのレガシーな「メディア企業的カルチャー」と、NewsPicksの「スタートアップ的カルチャー」が融合した組織です。

PIVOTでは「クリエイティブ&ファスト」というバリューを掲げているのですが、これがまさにメディア企業の「じっくりいいものを作って世の中を驚かす文化」と、スタートアップの「スピードで驚かす文化」の掛け合わせ。

カルチャーの違う2社で、意思決定の裁量を増やしていくキャリアステップを踏んでいなかったら、こうした発想にはならなかったと思います。

──あらためて、PIVOTの事業について教えてください。

PIVOTは、ビジネスやキャリア、投資などを学べる動画や記事のオリジナルコンテンツを200シリーズ以上、毎日配信しているアプリです。

最近は特に映像コンテンツを徹底強化していて、YouTubeにもほぼ全コンテンツを同時配信しています。記事コンテンツの特徴は、1話2000字×10話の読みやすい連載にしていることです。

──通常の記事コンテンツより少ない文字数なのですね。

そうです。現代人は、分厚い本を読む時間が少なくなっていますが、日々のニュースやTwitterなどの少ない情報だけでは知恵が溜まりません。

そこで、じっくり読み込む必要がある長文コンテンツではなく、気軽に専門的な話を読んだり、動画を視聴したり、音声を聞いたりできる、“ながら学び”ができるコンテンツを作っています。

Pivotter」を増やしていく

──これからPIVOTを通じて作りたい社会を教えてください。

リスキリング(スキルや知識の再習得)の必要性が叫ばれているように、何歳になっても勉強し続けないと3rdキャリアは拓きません。だから熱量のあるコンテンツを作り続けることで、一人でも多くの人生やキャリアをより良くするきっかけになりたいと考えています。

そして目指すのは、コンテンツを通じて日本をピボット(方向転換)すること。日本の社会に希望が生まれ、企業が新たな事業を生み出し、個人が自分に合った仕事に挑戦する際の知恵と勇気になれたら嬉しいです。

10年前に比べると日本でも転職する人が増えたとはいえ、まだ都市部の一部の人たちに留まっていますよね。新卒で入社した会社で働き続ける人が圧倒的に多いでしょう。

そうではなく、あるときは日本の大企業、あるときは海外企業、またあるときはスタートアップや起業、もしくはフリーランスになるなど、ライフステージや価値観に応じてキャリアを選ぶ「Pivotter」を増やしていきたいと考えています。

働き方やキャリアに対する認識が変われば行動が変わり、日本の社会はもっと良くなるはず。一人ひとりの人生の多様性を当たり前に認め合い、そのときどきでさまざまな選択肢を選べる社会を作るムーブメントを、PIVOTで起こしたいと考えています。

──佐々木さん個人として、人生で成し遂げたいことは何でしょうか。

まずは、いろんな団体や企業、政府を巻き込みながら、PIVOTを世の中に影響力のある会社にすることです。

アメリカではビジネスパーソンが政府などのパブリックセクターと行き来するのが当たり前なので、そういった文化形成にも貢献できると面白いですね。

とはいえ、現状はやりたいことの数%しかできていません。

個として覚醒した2ndステージから、起業した現在の4thステージに到達するまでに要した時間が10年だったことを考えると、次の10年間でできることはたくさんあるはずです。だから必ずPIVOTを大成功させて、日本の社会を変えたいと思っています。

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編集・執筆:田村朋美
撮影:小池大介

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