大企業にいながらスタートアップで成長を。LoanDEALの「レンタル移籍」が発明した人材育成

大企業かスタートアップか。これは成長意欲の高いビジネスマンの頭を悩ませる命題だ。キャリアの選択には明確な「正解」がない。だからこそ「転職先でうまくいかなかったら」「待遇が下がってしまったら」と不安になることは無理もない。特に人材流動性の低い日本において、一度得た大企業のポジションを離れることは大きなリスクテイクである。その先がスタートアップならば尚更だ。LoanDEALの「レンタル移籍」は、こうしたリスクを犯すことなく、大企業からスタートアップへ移籍し、経験を積むことができる発明のようなサービスだ。同社代表の原田未来氏はその先に何を目指しているのだろうか。

原田未来 株式会社ローンディール 代表取締役社長
2001年、株式会社ラクーン(現 東証一部上場)入社。部門長職を歴任し同社の上場に貢献。長く在籍するにつれて組織への愛着が深まる一方で、成長の鈍化に直面。2014年、株式会社カカクコムに転職し、新規事業開発。自身の経験から複数の業界・企業・職種を経験することの意義を実感するとともに、個人と組織の信頼関係の重要性に気づく。個人が「会社を辞めることなく外の世界を見る経験」として、企業が「人に成長機会を提供する手段」として、レンタル移籍を構想。2015年に株式会社ローンディールを設立。

個人の成長から企業全体の変革を目指す「レンタル移籍」とは?

──レンタル移籍とはどのような仕組みなのですか?

「レンタル移籍」はその名の通り、大企業の人材が6〜12カ月程度スタートアップに移籍し、働くことができる仕組みです。移籍先で価値創造や事業開発に取り組み、その経験を大企業に持ち帰って還元していただくことを目的としています。目指しているのは、人材育成をきっかけに企業全体を変えていくことです。

移籍先としてリストアップしているスタートアップは、事業ドメイン・職種こそさまざまですが、いずれも数名から数十人規模の決して大きくはない企業です。大企業から全く違う環境に飛び込んでもらうことで、短期での成長を促します。

移籍先を探すにあたっては、本人がどんな経験を積みたいのか、どんなWILL(意思)があるかを掘り下げた上でマッチングを行います。移籍期間中はもちろん、終了後に移籍元の大企業へしっかり還元できるよう、メンターがフォローを行っているのが特徴です。

──「出向」に近いシステムに感じますが、その違いは?

出向は基本的に関連会社や業務提携を行っている企業へ赴くケースがほとんどですが、LoanDEALのレンタル移籍はそうした縛りがなく移籍をすることができます。これが最も大きな違いですね。全く別の組織で働くことになるので、本人に強い意思と、事業への共感が無ければ移籍先で活躍することはできません。

そのため、レンタル移籍者には事前に「自分がどういう企業で、何をやりたいのか」を自分の言葉で考える研修プログラムを用意しています。自分自身と向き合い、自分自身で意思決定をしてもらう。これはレンタル移籍を行う上で必須のプロセスです。

──所属している大企業には「こういった経験を積んで欲しい」という狙いがあると思いますが、移籍先は本人の意思で決めることができるのでしょうか?

これまで大企業で求められてきたのは既存事業を安定的に運営すること。そのために、同一の採用基準をクリアした社員を雇い、一律の研修プログラムで育てていくことが一般的でした。

しかし、近年は大企業内においても新たな価値創造が求められ、人材においても多様性を取り入れようとする傾向があります。ローンディールを活用してくださっている多くの大企業も、こうした思いをお持ちです。つまり、自社の人材に多様な経験を積んでもらうことで、社内のバランスを変えていきたいのです。

多様な人材育成をしたいはずなのに、レンタル移籍先を会社が指定してしまうというのは、本末転倒です。なぜなら、そこで本当の意味での「多様性」が損なわれてしまうからです。

「こういった知見を持ち帰って欲しい」という思いはわかりますが、短期に身につくスキルや経験であれば、それこそ勉強会や研修プログラムで十分なはずです。レンタル移籍を利用してくださる企業は、それよりももっと大きな変化、例えるなら「意識改革」を求めているはず。その点をご理解いただき、移籍先は本人の意思に委ねるようご説明をしています。

リスクを取らずにスタートアップでの経験を積む

──本人が希望してから移籍するまでにどのようなプロセスがありますか?

移籍者は500社以上の移籍先リストから、3社ほど希望の企業をピックアップして経営者と面談をしてもらうのですが、受け入れ先からお断りをいただくこともあります。合格率は5割程度ですが、数社受けて決まるという方が多いですね。

──かなりシビアな選考なのですね。

なかなかマッチしないことに危機感を覚えてやっとスイッチが入り始めるという方もいますね。移籍者は選考のプロセスを通じて自身の「市場価値」と向き合うことになりますが、このプロセス自体が成長のためには重要です。自分の経験を棚卸しし、どう貢献できるかを考えることが、ベンチャーで価値を発揮するための第一歩です。

──レンタル移籍先ではどのような業務を経験することができるのでしょうか?

基本的には事業の企画や開発に携わっていただくことになりますが、本人と移籍先の組み合わせによってさまざまですね。例えば、大企業で研究開発に携わっていた方がウェブマーケティングのスタートアップに移籍し、とても高いパフォーマンスを発揮したという例がありました。

──畑違いの分野にも関わらず、ですか。

私たちも大変驚いたのですが、ヒアリングをして納得したんです。

研究のプロセスは仮説を立て、検証し、結果を振り返り、修正する、の繰り返しなんですよ。このプロセスがウェブマーケティングにおけるPDCAのサイクルと一緒であったため、レンタル移籍先にフィットし、成果を上げることができたようなんです。職種や環境を超えて活かせるスキルがあると気づけたことが大きな自信になったと仰っていました。

大企業で研究開発のポジションを得ている方にとって、スタートアップへ転職することは非常に大きなリスクと感じられるかもしれません。しかし、そうしたリスクを取らずにこうした経験を得ることができるのがレンタル移籍のメリットなのです。

大企業で身につけたスキルはスタートアップでこそ輝く

──一方、受け入れ先の企業にとってはどんなメリットがあるのでしょうか?

移籍してきた人材が活躍してくれるということが最大のメリットですね。移籍先からは軒並み高い評価をいただいており、継続的に人材を受け入れてくれているスタートアップも多数あるんですよ。期間限定とはいえ、覚悟を持った人ならば仲間として働いていくことができるのです。

──主にどのような点が高い評価につながっているのでしょうか?

大企業で求められる姿勢は大まかにいうと「ミスなく、分担して、効率的に」というもの。つまり綿密な計画のもと事業を管理し、再現していく力を持った人材が多い。プロジェクトマネジメントやリソースの管理、細かなところで言うと会議のセッティングや議事録など。大企業では「当たり前」とされているスキルがスタートアップにおいて重宝されるんです。

──スタートアップが欲しているスキルを、大企業の方が持ち合わせているということですね。

そうですね。この背景には、スタートアップが常に直面している人材不足の課題があります。0→1で事業を立ち上げられたとしても、組織として事業を1→100へ伸ばす力を持った人が不足しているんです。

日本ではいまだに優秀な人材は大企業に就職する傾向があります。ではスタートアップが自社で人材を育てていけるのかというと、そうした余裕はない場合がほとんどです。もしあったとしても、時間とお金をかけてジェネラリストを育成していく大企業のような手厚い育成制度を用意することができるのはほんのひと握りでしょう。

──となると、レンタル移籍をきっかけにスタートアップからヘッドハンティングされることもあるのではないでしょうか?

意外なことに、そうした例はほとんどないですね。環境を変えて、改めて大企業の魅力に気づいたというのはもちろんですし、経験を積み視座が変わったことで所属企業でやりたいことが見えてきたというご意見をいただくこともあります。

環境を変えてはじめてわかる自分の「価値」と「意思」

──今いる環境と異なる場所で経験を積むことは、個人のキャリアにどのようなメリットがあると思いますか?

海外旅行に行って改めて日本食の美味しさに気づくという方は多いですよね。それと同様に、何を重視しているか、何が自分に合っているのかなど、仕事の価値観というのは一度違う世界を経験しなければわからないものだと思います。僕自身も過去にそういった経験があり、LoanDEALのサービスを立ち上げたんです。

──それはどういった経験でしょうか?

私はファーストキャリアで10人規模のスタートアップに入社し、13年間働きました。20代後半から管理職となり、上場を経験したのですが、30歳を過ぎて物足りなさを感じ始めたんです。一緒に育ってきた会社に愛着もありましたが、反面、自分自身は成長が鈍っていく感覚がありました。このままこの会社にいるわけにはいかないな、という気持ちが芽生え始めたんですね。

そこで35歳の時に人生で初めて転職しました。社風や規模が大きく違う環境に身を置いた時に、初めて自分が仕事に求めていたものがわかったんです。

──転職して、客観的に自分を見つめ直すことができたのですね。

そうですね。全く異なるビジネスモデルに触れたことで、自分が仕事に求めているのは規模とか市場へのインパクトではなく、誰が使っているかの顔が見えて、ユーザーに及ぼす影響を感じられるもっと手触り感のあるものだとわかったんです。そして以前の会社でもっとできることがあったことに気づきました。

こうした経験から、 LoanDEALのレンタル移籍を着想しました。環境を変える経験は重要だけれど、今は「転職」以外の選択肢はない。ならば新しい選択肢をつくってみようと。僕自身、最初の転職時は小さな子どもがいたので環境を変えることはそれなりのリスクを感じましたが、そうしたハードルを低くして、より多くの人が挑戦できるようにしていきたいなと思ったんです。

キャリアアップに最も重要なのは「動くこと」

──原田さん自身の体験が強く反映されたサービスだったのですね。実際のユーザーからはどんな反応がありますか?

大企業の担当者様から「人が成長する瞬間、変化する瞬間を初めて見た」と言ってもらえた時は本当に嬉しかったですね。

これは実際にあったケースなのですが、移籍先のスタートアップが事業縮小により、社員数が半減したんです。何万人も所属している大企業で働いていると、そんな危機に直面することはまずありません。また、ここまでのハードシングスではなくとも、自分以外に担当できる人員がいないとか、サービスの継続の危機に直面するなども、なかなか経験できることではないでしょう。

また、移籍をしたご本人からも「人生が変わる一年だった」「自分がやりたいことがクリアになった」という声をいただきます。一年という短い期間で自分の価値を証明しなければならない。これはある意味では転職よりもシビアな状況かもしれません。だからこそ、経験がより濃いものになっていくのだろうと感じますね。

──多くのレンタル移籍を支援してきた原田さんですが、キャリアの可能性を広げるために必要なものは何だと思いますか?

正直なところ、その答えは僕が知りたいぐらいですよ(笑)。ただ、現時点では「動くこと」。これが必須条件であるのは間違いないと断言できます。 「まだ準備ができていないから」とか「経験を積んでから」と先延ばしにするのは辞めたほうが良いのではないでしょうか。準備はやりながらしか出来ないし、やっているうちに覚悟は固まるものです。だから、まず動いてみることが重要なんです。そして、動き続け、考え続ける。その先に自分の望むキャリアがあるのだと思います。

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編集・執筆:高橋直貴(ベリーマン)
撮影:玉村敬太

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