転職、起業に次ぐ第三の道「事業承継」。長く愛される事業をアップデートする

近年、中小企業経営者の高齢化が進み、地方の企業や店舗では廃業が相次いでいる。廃業による雇用や技術の喪失、そして地域の衰退を防ぐため、多くの事業者にとっては後継者探しが急務だ。この事業承継問題を解決すべくオープンしたのが、事業承継マッチングプラットフォーム「relay」。サイト上に事業を引き継ぎたい事業主の記事を掲載し、継業候補者とマッチングするサービスである。サービスを立ち上げた株式会社ライトライト代表取締役の齋藤隆太さんに、小規模事業者の事業承継の現状とその可能性について伺った。

齋藤隆太 株式会社ライトライト代表取締役
宮崎県出身。2007年4月、株式会社USEN入社。2008年、株式会社サーチフィールド創業、取締役就任。2012年、地元応援クラウドファンディング「FAAVO」立ち上げ。2017年、株式会社サーチフィールドの宮崎オフィスを立ち上げる。2018年にFAAVOを株式会社CAMPFIREに事業譲渡し、自身も移籍。2019年、株式会社CAMPFIRE執行役員就任。2020年1月、株式会社ライトライトを設立し、事業承継マッチングプラットフォーム「relay」をオープン。

廃業が決まる前に、「後継者を探している」と発信できるように

━━齋藤さんは、どのような経緯で事業承継のマッチングプラットフォーム「relay」を始められたのでしょうか。

このサービスを立ち上げる前は、「FAAVO」という地域特化型のクラウドファンディングサービスを運営していました。その頃から、地方と都市部をつなぐことに関心があったんです。FAAVOを運営するなかで、日本各地に足を運びました。そこで、どの地方も事業承継の問題を抱えていると知りました。そして、2018年には自分自身がFAAVOを株式会社CAMPFIREに事業譲渡したんです。

━━国内最大のクラウドファンディングサービスを運営している会社ですね。

ゼロからつくったサービスを第三者に渡す経験をして、事業を受け渡すことのいい面と難しい面、両方を実感しました。自分事として事業承継が気になり始めたら、テレビのドキュメンタリー番組や新聞などで、事業承継できずに廃業する店が取り上げられているのが目に入ってくるようになりました。時代的にも事業承継問題は注目を集めていて、当時は2019年の末でしたが、日経新聞でも「大廃業時代がくる」といった記事が書かれていたんです。そこでクラウドファンディングの次は地方の事業承継問題に取り組もうと考え、2020年に新しく会社を立ち上げました。

━━relayで扱っている案件は、主に小規模事業者の事業承継です。小規模事業者は、後継者を見つけるのが難しいのでしょうか。

そうなんです。なぜ見つからないのか考えていた時、自分が目にした番組や記事の取り上げ方が、常に廃業が決まったタイミングだったということに気づきました。つまり、「廃業しそう」というタイミングでは表に出てこない。だったら、廃業が決まる前にメディアで取り上げて、誰かから問い合わせがくるようにすればいいのに、と思ったんです。

調べてみると、事業承継の業界には売り手の情報の非開示という暗黙のルールがあるとわかりました。なぜかというと、売り手の事業者には負債があるというイメージがあり、会社を売ろうとしているといった情報が広まると、銀行や従業員、取引先などが不安になって事業運営に支障が出る可能性があった。その混乱を防ぐため、基本的には仲介者と代表取締役だけで話すのが基本ルールになっていたんです。このルールは大手企業から小規模事業者まで、暗黙の了解で適用されていました。

━━だからメディアには「廃業しそう」という段階の情報は出てこないんですね。

でも、僕らが会っていた地方の小規模事業者さんは、家族経営で従業員がいなかったり、負債もなかったりして、このルールがあまり意味をなしていなかった。むしろ取引先に「そろそろ跡継ぎ探さなくていいんですか?」と聞かれたりしていたくらいなんです。小規模事業者に限っては、もっと事業承継の情報をオープンにして、広く人を集めるべきではないかと考えました。そこで、情報を開示した事業承継のマッチングプラットフォームを設計したんです。

1:9で事業の買い手が多い。後継者ニーズは高い

━━これまで小規模事業者の跡継ぎは、お子さんなどの親族が多かったのでしょうか。

基本的には親族承継ですね。でも今は子が家業を継ぐのが当たり前という時代でもないし、子に継ぐ意志がないので店を閉めるという人も多かったんです。それはそうだと思いつつ、重要な機能を果たしている店が事業者さんの意向だけで閉業してしまうと、その地域社会としても困ったことになる。そういった方々に事業を継ぎたい人を紹介するアプローチを開始しないと、地域がどんどん衰退してしまうという危機感を覚えました。

━━たしかに、案件を見ていたら「村に一つしかない食事処」や「町で唯一の『直営型クリーニング店』」などがあり、そういった店舗がなくなったら地域住民の方々は不便になるだろうと思いました。こういった案件に手を挙げる、承継者になりたいという人はどのような思いで応募をしてくるのでしょうか。

起業まではいかないけれど自分で事業をやっていきたい、という気持ちがある方が多いですね。0→1で何かを立ち上げるのは得意ではないけれど、1を10に広げていくのは得意。そんな人はけっこういるのではないでしょうか。そういった方々の受け皿になっていると思います。この業界は1:9で買い手が多いんですよね。みんな案件が出るのを待っているんですよ。

━━応募者はどういった経路でrelayにたどり着く人が多いのでしょうか。

SNS広告からの流入が多いです。最近はInstagramからの問い合わせがすごく多いですね。僕らは情報をオープンにする、オープンネーム事業承継を標榜していて、SNSとの相性がすごくいいんです。これまでは、能動的に情報を取りに行かなければ、事業承継の案件の情報は見つけられなかった。でも、僕らが扱う案件はSNSなどを見ていて偶然目に入る、という出会い方があるんです。

relayは宮崎県に本社オフィスを構える。

━━条件や権利関係の調整はスムーズにいくのでしょうか。

もちろん事業承継はいろいろな問題が出てくるものなので、ちょっとした想定外が起きることもあります。しかし扱っている案件が小規模なこともあり、ここまでそんなに大きな問題は起きていません。基本的には事前にヒアリングして諸条件を整理し、それを踏まえた上で成約に至るので、そこまで大きなトラブルにならないようになっているんです。

━━想定外のことは起こらないようになっている。

まずプラットフォーム上で売り手さんの思いやこういう人に来てほしいということを伝えています。それに加えて、承継元と対面する場を設ける前に買い手さんに財務状況を知ってもらうようにしているんです。事業の特徴や土地の情報、売上損益の推移などをまとめたシートをつくり、それを承継希望者に販売しています。記事で売り手さんの思いを理解した上で、購入してでも財務状況を知りたい。そういう人をオペレーションでスクリーニングしているので、合意に至りやすいんです。

思いを受け継ぎ、事業をリノベーションする

━━売り手側にはやはり、「事業を継いでくれるなら地元の人のほうがいい」という思いがあったりするのでしょうか。

意外とそういう声は聞かないですね。県外でも県内でも、同じ町でも他の町でも、どこから来るかは問われないケースが大半です。地方は移住者に対して補助金が出るところも多く、創業融資でお金も借りやすい。「地域おこし協力隊」として移住すると、その自治体の準職員のような扱いになるので、自治体からお金が出たりもするんです。移住者は基本的に歓迎されます。

━━それは助かりますね。地方移住のニーズも高まっているけれど、地方には仕事がないのがネックだと考えている人にとっては、事業承継が一つの選択肢になるかもしれません。

まさにそうなんです。事業承継で仕事を得るというのはこれからの移住において重要な選択肢になると思います。

そして、外部からは「負債があったり赤字だったりする事業なんて誰も買わないのでは?」と思われているんですけど、そんなことないんですよ。負債があっても赤字でも問い合わせはガンガン来ます。売り手さん側も、「うちの事業は今の時代に合わないから誰も買わないだろう」と思いこんでいるんですけど、それも違うんですよね。どんな事業でも買いたい人はいますし、買った人が現代風にアップデートすることも可能です。事業のリノベーションをするような感覚ですね。

━━「事業のリノベーション」が行われた事例はありますか?

宮崎県高原町の「天然酵母田舎のぱん屋」という小さなパン屋さんが、もともとそこのパンのファンだったという方に製造機材やパンのレシピなどを引き継いだ案件があります。もとは卸を中心とした業態で店舗にはそこまで力を入れていなかったのが、とてもおしゃれなベーカリー&カフェに生まれ変わりました。今や大人気で、ランチの予約は全然とれないそうです。

夢をかなえるUターン。転職でも企業でもない事業承継という道

━━もともと店のファンだったということは、後継者はそのあたりのご出身なのでしょうか。

そうですね。宮崎県出身で、実家の隣町に「天然酵母田舎のぱん屋」があったんだそうです。関東に出てきており、たまたま本屋でrelayがこの事業承継の案件を載せていた雑誌を立ち読みし、好きなパン屋が閉店してしまいそうということを知った。そこで、以前から自分の店を持つのが夢だったこともあり、自分が継ぐと名乗り出た、という次第です。事業承継が決まってから、家族を連れて宮崎県にUターンしたそうです。

━━その方はお店をやっていた経験があったんですか?

パン屋で働いてはいたけれど、オーナー経験などはありません。でも、それでも大丈夫なんです。経営の経験が全然ない方の応募も多いし、それで事業承継がうまくいったケースもたくさんあります。

━━「カフェをやりたい」など、自分の夢をかなえたいという人の応募が多いのでしょうか。

自己実現をしたい人の受け皿になっている、と感じます。創業するのはリスクが高いし踏み切れない、でも自分で事業をやりたい。そういう気持ちがある人に機会を提示したいんです。そして、これから2025年にかけて、事業承継の案件は増大すると考えられます。なぜなら、経営者がさらに高齢化していくから。現在、年間の廃業数は5、6万件あります。でもまだrelayに掲載されている案件はその1000分の1程度。これをもっと廃業数に追いつけるくらい増やしていきたいと考えています。

僕らの仕事は、事業承継の案件を掘り起こし、自己実現をしたい人に機会を提供すること。そうした方々が自分のアイデアを形にしていくと、地域の魅力がもっと上がっていくと思うんです。地方の店舗にはITが導入されていないところも多いので、ITに詳しい人が事業を受け継ぎ、EC展開して全国にそこの商品を売るといった広がりも今後出てくるでしょう。こういう、1を10にできる人たちにとっての、転職でも起業でもないキャリアのネクストステップとして、事業承継が選ばれる社会をつくりたいですね。

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編集:野垣映二(ベリーマン)
執筆:崎谷実穂
撮影:林成志