【江口亮介】リクルート、マッキンゼー、起業…、気鋭の若手経営者を支えた「逆算思考」

「常に目標から逆算して行動していました」と語るのは、不動産エージェントとつながることのできる家探しサイト「Agently」を運営するTERASS代表取締役の江口亮介氏。彼はどのようにリクルートからマッキンゼー、そして起業と、キャリア目標を実現していったのか。本記事では江口氏のキャリアを振り返りながら、それを形成するに至った「9」のファクターをビジネスモデルキャンバス、ならぬキャリアモデルキャンバスで解き明かす。

江口亮介 株式会社TERASS代表取締役 
慶應義塾大学経済学部卒業後、株式会社リクルートに新卒入社し、SUUMOの広告企画営業を担当。その後、売買領域のMP(Media producer)として、SUUMOの商品戦略策定・営業推進・新商品開発などに関わる。2017年にマッキンゼーアンドカンパニーに入社し、戦略・マーケティングを中心とした経営コンサルティングを手がける。2019年に株式会社TERASSを創業する。

「一番になる」ためにすべきことを徹底的に実行する

「日本の不動産売買を進化させたい」

僕はそんな思いを持って、TERASSという会社を起業しました。日本の不動産業界は、世界と比較して圧倒的に後れをとっています。この現状を打破したいと、僕らは「Agently」をリリースしました。「Agently」は、従来の「物件」探しから始まる家探しと異なり、信頼できる「担当者」を探すことからスタートします。

ユーザーは、プロフィールに掲載された実績やチャットでの悩み相談、実際に提案を受けるなどして、自身のかかりつけ不動産エージェントを見つけていくことができるのです。サービス開始2年にして、利用者は約1万人に増えています。

僕は事業を行うからには、社会にインパクトを与えたいと思っています。TERASSを通じ、日本の不動産業界にもっとも大きなインパクトを与えられる存在になる。今、そんな目標を立てて歩んでいます。

小さい頃の僕は、なんでも一番でないと納得がいかない大の負けず嫌い。母から聞きましたが、毎朝保育園には一番乗りに登園しないと悔しくて泣き叫んでいたそうです。親は必死で早起きをし、周囲の保護者は僕に一番を譲ろうと気を遣い……と、なかなか我が強い子どもだったようです。

大学生に入ってもそんな「一番」を大事にする性格はそのまま。慶應義塾大学に入学して、「慶應ボーイコンテスト」に出場してトップを目指しました。「出場するからには1番にならないとかっこ悪い」「後から言い訳をするくらいなら、今すべきことをする」、そう思って、目標に向け逆算して動きました。

そして、周囲の応援もあり、僕は「ミスター慶應」に選ばれました。目標に向けた逆算思考はビジネスシーンにおいては当然のことかもしれません。しかし、学生においてそこまで徹底できる人はそういないかもしれません。このときに感じた逆算思考の重要性は、その後も僕の人生を切り開く重要な力となりました。

「いつか起業する」思いで就職先を選択

就職活動の時には、独立して事業をしていた親族が多かったこともあり、「いつか起業したい」という思いで会社を選びました。メインの選択肢としたのは、メガベンチャーといわれるような比較的事業規模が大きく、若手が活躍している企業。具体的にいうと、楽天やリクルートなどでした。

迎えた楽天の面接。そこで僕は、役員に向かって「この部署に配属してもらえるならば入社します」と伝えました。しかし、当然ながら「約束はできない」と返されてしまいます。今振り返ると、本当に生意気ですよね(笑)。しかし、そんな自分をリクルートは受け入れてくれて、同社への就職が決まり、希望の部署に配属となりました。

リクルートでは、不動産サイト「SUUMO」の営業職に就きました。入社当初の僕は「結果を残して、3年で辞めて、起業する」と意気込んでいました。しかし、蓋を開けると全く営業成績が上がっていきません。なんと11ヶ月間もの間、営業目標を達成できなかったのです。

ご存知の通り、リクルートは営業が強い会社です。周囲がどんどん結果を出していく中で、僕はどんどん取り残されていく。教えてもらうのは最初の1週間程度で、その後は「自分で考えて営業しなさい」というのが当時のリクルートのスタンスでした。

僕は「売上を上げたい」「実績を残したい」という一心で顧客のもとへ行き、懸命に話をしました。しかし、顧客には冷たくあしらわれ、見向きもしてもらえませんでした。

「なんでうまくいかないんだ……」

悶々と悩んでも全く光は見えてきませんでした。

ある日、僕は先輩に対して怒りをあらわにしました。

「先輩、僕に営業の仕方を教えてくださいよ! きちんと教えてくれないなんて怠慢です!」

あまりに横暴な言い分ですが、「こんなに結果が出ないならば、もう辞めたい」と思っていた僕にとって、精一杯の開き直りでした。

結果的にこの切り替えが功を奏しました。先輩から「じゃあ、営業に1日だけ同行するよ」と言ってもらい、アドバイスをしてもらえるチャンスを得たのです。

営業同行から戻ると、先輩から予想外のコメントをもらうことになります。

「このクウォーターは目標を達成しなくていいから、顧客に一回『ありがとう』と言われてこい」

そう言われたのです。即座に僕は、「え? そんなことでは売上は上がりませんよ!」と食らいつきましたが、「いいから!」と押し返されます。

正直、アドバイスに対しては半信半疑のまま、それでも「言われたからにはやってみよう……」と自分の営業スタンスをガラリと変えていきました。

その日から、顧客に「ありがとう」と言われるためにはどうしたらよいかを考える日々が続きました。

参考になる資料を作ったり、耳寄りな情報を届けたりと、「役に立つこと」に集中したのです。すると、次第に顧客に感謝され、「こんなことに困っている」と相談をされるようになっていきました。

相談してもらえると、それに基づいた良い提案ができるようになり、営業成績を上げていくことができるようになっていきました。振り返ると、ここで僕は「正のスパイラル」に入ることができたのだと思います。

今ならばわかりますが、それまでの僕は営業しようと躍起になっていて、顧客に鬱陶しがられ、ニーズを聞き出すこともできず、そのため的を射た提案もできないという、負のスパイラルの渦中にいました。その状況を、「感謝される」ことを目標とした瞬間に、ガラリと変えることができたのです。

実に入社12ヶ月目にして、僕はようやく目標数字を達成することができました。そして、そこから2年間一度も欠かすことなく目標を達成し続けたのです。営業部門でのこの出来事は、僕にとって「相手の立場に立ってビジネスを行うこと」の重要性を知る原体験となりました。

プロ経営者を見据えてマッキンゼーに入社

3年間営業を経験した僕は、企画部門への異動を希望しました。リクルートに入った当初は「起業したい」と思っていたものの、11ヶ月の営業不振が続いたことで、「まだまだ自分には知らないことが多すぎる」と感じるようになっていました。

そこで、これまで自分が売っていたSUUMOの企画開発に行き、その仕組みを知りたいと思うようになったのです。

リクルートは営業部門だったら営業部内でキャリアを築き、企画開発部門であればそこでキャリアアップを図っていくことが一般的です。しかし、僕は両者を横断したキャリアを築きたいと思っていました。そこで、営業で実績を築き、それを持って役員へアタック。きちんと自分の思いを伝えたことも奏功し、希望通りの配属となりました。

SUUMOの企画開発部門では、異動して比較的すぐに成果を出すことができました。自身の能力に合っていたこともありますが、営業を経験していたことでマーケットや営業担当者の気持ちを理解していたことが大きなアドバンテージとなりました。さらに、営業で培った合意形成のスキルも役立ったように思います。

企画開発部門で成果を残す一方で、戦略立案やM&Aなどもっと会社経営にコミットする仕事をしたいと思うようになります。当時の僕は、起業ではなく複数の企業を経営者として渡り歩くプロ経営者になりたいと考えるようになっていました。企画開発の仕事を経て、自分は「0→1」ではなく、「1→10」の方が得意なのではないかと思うようになったことがその背景にありました。

とはいえ、プロ経営者になるにはまだまだ経験が足りません。そこで、次のステップとして考えたのが、そのままリクルートで経営を経験するか、外資系コンサルへ転職するか、2つの選択肢。

外資系コンサルは「戦略立案にコミットしたい」という希望を満たし、かつプロ経営者への近道に感じられる一方で、当時のリクルートは上場したばかりで、バンバン会社を買っていたタイミング。そこで、買収した会社の経営企画の責任者になれないかと考えたのです。

僕は転職活動を行い、マッキンゼーの内定を持った状態で、当時のグローバル部門の役員に根回しをしてアポを取りました。「僕、この後マッキンゼーに入社しますが、もし希望のポジションに就けるならばリクルートに残ります。いかがですか?」と交渉しに行ったのです。結局は、「それはない」と言われちゃったんですけどね(笑)。それで、マッキンゼーに転職しました。

よく「マッキンゼーは全く風土が違ったのではないですか?」と言われることがあります。しかし、僕の体感ではリクルートとマッキンゼーは似ていました。例えば、どちらの会社も、100%を目指すのではなく、20%の時間で80%を目指すという「8020」という姿勢を大事にしているなど、共通項が多かったのです。

マッキンゼーの仕事は刺激的で楽しいものでした。結果を残していると、次なるおもしろそうなプロジェクトに声をかけてもらえるようになる。ビジネスの勝負の世界の醍醐味を僕は思う存分味わうことできました。

そして3年間経ったタイミングで、プロ経営者としての道を再度考えるようになります。そこで転職エージェントに、外資系スタートアップの日本法人立ち上げや上場手前のベンチャー企業のCXOといったポジションを紹介してくれるように依頼をしました。しかし、そこで転職エージェントから予想外の助言を受けます。

「江口さん、起業してはいかがですか?」

プロ経営者への道の憧れもありましたが、この一言に起業という道もあるのではないかと思うようになりました。プロ経営者は、年齢を重ねてからでも遅くない。であれば、このタイミングで起業せずに後悔したくないと思ったのです。

不動産仲介の仕組みを変えてインパクトを与えたい

そして、2019年にTERASSを創業しました。僕は、日本の不動産売買を一歩も二歩も進化させたいと思っています。これから、中古不動産の売買がもっと盛んになっていきます。中古は、新築よりも専門性が高く、より信頼できるエージェントの存在とそのマッチングが欠かせません。そのために、僕たちに求められることは一層増えていくと考えています。

会社を始めると、今まで感じたことのなかった不可逆性の怖さを感じるようになりました。資金調達も、人材の採用も、一度進めてしまったらもとには戻れません。自ら意思決定をし、「えいや!」と踏み出さなければいけない。起業して3年間、その恐怖を常に感じています。だからこそ、人の話を聞き、書籍を読み、先人たちから学んでいます。

もちろん、怖さだけでなく、ワクワクも大きくなっています。社会に起こしたインパクトの破片を感じ取ることができた時、胸が躍ります。例えば、最近、「Agently」を活用した方が、「素晴らしい! 感動した!」と言ってくださり、自社の採用面接を受けにきてくれました。自分のアクションが誰かに影響を与えられたと感じられると、背中を押されます。

もちろん、従業員や株主を含めて、人の役に立ちたいとは思います。でも他の誰かのためだけに働いているというわけではないんです。僕はエゴイストなので(笑)。

自分の人生をどう使うかを考えた上で起業しているので、自らが描く理想を実現したい。そのために、これからも走り続けます。

江口亮介のキャリアモデルキャンバス

リクルートの営業部門での挫折、その後の企画開発部門やマッキンゼーでの成功体験を経て、起業の道を選んだ江口氏。常に目標からの逆算思考を基軸に歩んできた江口氏のキャリアはどのような考えに基づいて形成されたのか。

Value ─キャリアを通じて提供したい価値は?─
→選択肢を増やし、幸福度を上げる

「幸福とは、何かをしたいと考えたときに多くの選択肢があることだと考えています。僕は不動産分野での選択肢を増やしていきたいと思っています」

Customer Relationship ─周囲の人とどう接する?─
→“You are special.”という気持ちを持って接する

「『僕にとってあなたは特別な存在です』ということをきちんと丁寧に伝えるようにしています。誕生日を祝うなど行動で示すことで、僕自身も改めて大切さに気づきますし、相手にも思いをわかってもらうことができます」

Channel  ─自らの考えをどう届けている?─
→自身をメディアとして活かす

「『ミスター慶應』や読者モデルをしていた過去もあり、僕自身がユニークネスを持った媒体だと考えています。TERASSは、BtoBtoCの事業なので、自分を露出して広く知っていただくことの重要性を感じています」

Customer Segment ─誰の役に立ちたい?─
→不動産で悩みを抱えている人たち

「不動産売買に課題を感じている方はもちろん、まだ具体的な悩みにはなってはいないけれど潜在的に不動産に関心を持っている人たちの役にも立ちたいと思っています」

Key Activity ─キャリアを通じて行っている行動や活動は?─
→逆算思考

「『1番になるためにどうしたらよいか』あるいは『目標を達成するためには何が必要か』を考えて、必要なプロセスを実行していきます」

Key Resource ─原動力となる能力やスキルは?─
→「見立てる、仕立てる、動かす」

「リクルートで学んだ、何をしたいか明確に決める『見立てる力』と、それに対してどう達成していこうかと考える『仕立てる力』、計画に対して徹底的にやり抜く『動かす力』という3つの力が僕の原動力となっています」

Key Partner ─自身のキャリアの重要な協力者は?─
→自分のキャリアチェンジに関わった3名

「キャリアの転機のタイミングで関わってくれた、マッキンゼーに転職した際の転職エージェントの方、起業する際の投資家の方、一緒に起業したCTOの高坂昌行の3名」

Cost ─キャリアのために投資していること、犠牲にしていることは?─
→健康維持のために時間とお金をかける

「本当にこだわっている人と比べるとまだまだですが、健康を維持して最大のパフォーマンスを発揮するために、睡眠の質や体づくりに注力しています」

Reward ─あなたは働くことを通じてどんな報酬を得たい?─
→称賛と信頼

「わかりやすい例でいうと、『Forbes100』に選ばれたことは嬉しかったです。褒めていただけることがありがたいというだけでなく、賞賛とは一定数の人が信頼してくれている証だと思うからです」 

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編集:野垣映二(ベリーマン) 執筆:佐藤智 撮影:小池大介

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