社会性と経済性の両立。「ゼブラ企業」が新しい経済に挑む

2013年にシリコンバレーから生まれた「ユニコーン」という言葉。評価額が1000億円を超える未上場企業を指し、現在の資本主義を象徴している。一方で、短期的に市場を独占し、時価総額の最大化を目的とするユニコーンへのリアクションとして新たに生まれたのが、社会性と経済性の両方を追求する「ゼブラ企業」というコンセプトだ。世界中でムーブメントになりつつあるゼブラ企業について、Zebras and Companyの共同代表取締役 陶山祐司氏に話を聞いた。

陶山祐司 Zebras and Company 共同創業者  代表取締役/
Tokyo Zebras Unite 共同創設者/(一社)日本GR協会理事
ベンチャーキャピタリストとして、様々な企業の投資審査や、宇宙開発ベンチャー、IoTベンチャーの事業戦略策定、資金調達、サービス開発、営業等の支援を実施。大企業においても新規事業の開発および新規事業が生まれて来るような組織開発・人材開発・経営支援を実行するとともに、経済産業省での経験と繋がりから政策提言等も行なっている。

ユニコーン至上主義への警鐘から生まれた「ゼブラ」

──「ゼブラ企業」の概念が生まれた経緯について教えてください。

陶山:ゼブラ企業は、2016年にアメリカ西海岸から始まったムーブメントです。

4人の女性起業家たちが、「短期・独占・株主至上主義」という現在の行き過ぎた資本主義のあり方に警鐘を鳴らしたことから始まりました。

既存のスタートアップ・エコシステムのなかでは、短期的な10倍成長が期待できるIT産業などに投資マネーが集中する一方、社会にとって有益でも急成長は見込めない企業には投資が集まらない。これはおかしいのではないか、と。

社会課題を解決しつつ持続可能な事業を営む新しいスタートアップ経営をコンセプト化して、「ゼブラ企業」という言葉が生まれました。

出所:Zebras Unite 資料をTokyo Zebras Uniteにて翻訳・整理

そして、ゼブラ企業とその支援者のコミュニティを作っていこうと「Zebras Unite」という組織が誕生すると、世界中から共感する起業家と投資家が集まったんですね。

──陶山さんも、このゼブラ企業の概念に共感した。

そうですね。社会的意義がある事業を興そうとする起業家はいても、短期間で大きな成長を求めるVCの投資対象にはなりにくい。自分自身もVCとして活動するなかで、これは既存のスタートアップ・エコシステムの大きな課題だと感じていました。

そこで私を含めた共同創業者3人は、2019年にゼブラ企業のムーブメントおよびコミュニティづくりを手掛ける「Tokyo Zebras Unite」を立ち上げ、2021年にゼブラ企業への投資・経営支援を行うZebras and Companyを設立しました。

https://www.zebrasand.co.jp/

「社会課題解決を目的とした100億円企業」を目指す

──ゼブラ企業のコンセプトは思想的ですが、具体的にはどんな事業を行い、どんな人たちが集まるのでしょうか?

事業領域はかなり広範で、たとえば地域課題の解決や、新興国の課題、環境問題といった各領域に課題意識を持つ人が事業を興しています。

人材でいうと、日本ではZ世代や20代など若い人が多いです。理由として考えられるのは、物質的欲求が一定程度満たされる環境で生まれ育ったことや、バブル崩壊以降の“失われた30年”で育った経験があると思います。

日本が構造的に成長しにくくなったなかで育ったからこそ、「経済も大事だけど社会を良くしたい」「自分だけが儲かるというのでなく、地域に貢献したい」と考える人が多いのではないでしょうか。

かつての日本企業が大切にしていた「三方よし」や「年輪経営」に近い思想が、若い人を中心に生まれ始めているのかもしれません。

加えて、2010年代にスタートアップを成長させた経験を持つ30代後半〜40代も、次の挑戦の場としてゼブラ企業を選択する人が増えています。

ゼブラ企業は経済性と社会性の両立という、難しいテーマに挑戦します。

スタートアップを成長させた経験がある人は、そのナレッジやスキルを、より社会に直接的に活かす形を模索しているのかもしれません。そして、そうした経験があるからこそ、成功の確度が高くなると考えています。

──社会起業家とゼブラ起業家の境界とは?

社会起業家とは重なる部分が多いと思うし、社会起業家の中にもゼブラ起業家はいると思います。

ただ、一般論として「社会起業家」という言葉は、社会にインパクトを出すために一定規模までスケールをさせるという意味合いが弱いという印象を持っています。

「社会起業家」と呼ばれているある一人の起業家から、まさに、そうした理由で「『社会起業家』と呼ばれるのが嫌だった、ゼブラ起業は経済性も追求しているのが良い」と言われたことがあります。

──ゼブラ企業はどれくらいの規模に成長すると、成功と言えそうですか? 

僕らが支援する会社として一つの目安に考えているのは、100億円企業です。100億円規模まで拡大できたら、社会の多くの人に認知されるようになる。

わかりやすい例を出すと、日本の老舗企業である小田原のかまぼこ鈴廣や森下仁丹、木村屋総本店などはほぼ100億円企業です。

短期的な利益ではなく、長く持続した事業と社会へのインパクトという意味では、日本の老舗企業とゼブラ企業は似ているとも感じています。

こうした企業を輩出することができれば、ゼブラ企業というコンセプトがより社会に伝わるようになると考えており、一つの目安として、100億円規模の企業であったり、100億円くらいの市場を作れる企業を育てていくことを目指しています。

ゼブラ企業の4つの特徴

──ゼブラ企業はSDGsとの親和性が高いと思いますが、SDGsを掲げる大企業もゼブラ企業を名乗れるのでしょうか?

すべての企業がゼブラ企業に近づくことはできると思います。

重要なのは、社会性と経済性の両立と、そのマインドセットを持って実際に行動すること。だから、大企業がSDGsを掲げただけでは、ゼブラ企業とは言えません。

ゼブラ企業の特徴を4つご紹介します。

①事業成長を通じてより良い社会をつくることを目的としている。売上・利益の最大化が目的ではなく、社会課題の解決を目的にしている。

②時間、クリエイティブ、コミュニティなど、多様な力を組み合わせ、その力を借りながら長期間で持続的な事業を進めている。

③長期的で包摂的な経営姿勢である。短期的ではなく、長期的にステークホルダー全員を幸せにする経営をしている。

④ビジョンが共有され、行動と一貫している。企業の存在意義や実現させたいビジョンを共有し、経済的なアセットをツールとして社会的インパクトを出そうとしている。

SDGsを掲げても、それを実現させるための一貫した行動を取っていない企業は、ゼブラ企業とは距離があると思っています。

ファンを集めやすい=成長のポテンシャルが高い

──率直に、ゼブラ企業には成長するポテンシャルがあるのでしょうか。

私は圧倒的なポテンシャルがあると思っています。

なぜなら、今はビジネスにおけるあらゆる活動──資金調達、マーケティング、リクルーティングなどすべてにおいて、「その企業は何を目指しているのか、そのための行動は一貫しているか」が問われる時代だからです。

その点、ゼブラ企業は存在理由が明確で、社会的意義があり、その実現に向けて事業を展開しているため、経営リソースやファン、仲間を集めやすい。

その企業のパーパスが新しい個人の価値観や生き方と合致していたら、なおさら選ばれる存在になるでしょう。

それゆえ投資家としての観点からも、従来のスタートアップ・エコシステムでは評価されない価値を追求するゼブラ企業向けの投資はブルーオーシャンといえます。

また、アメリカでは、こうした社会性と経済性を両立させる企業群が”新たな産業・業界”として捉えられ始めています。成長産業という意味でも、「ゼブラ企業で働く」という選択肢は、キャリアの観点からも成長性があると思います。

ゼブラ企業のために新たな投資スキームを開発

──現在、Zebras and Companyが投資や支援している事例をいくつか教えてください。

まず、長い時間軸で投資先を支援し続けたり、上場やM&Aという既存のエグジットの手法に縛られないために、私たちには一般的なVCとは異なる投資スキームを開発することが必要でした。

スタートアップが従来のVC型投資を受けるためには、起業家にとって本意ではなくとも、早ければ3~5年程度でのIPOや事業譲渡など、なんらかのエグジットを目指す必要があります。

この課題を解決するために、出資時点で事業目標と投資リターンの水準だけは合意しつつも、実際の事業成長に応じて柔軟に多様なエグジットやリターンのあり方を選べるような投資スキームを開発しました。

これを「LIFE type1」( Long-term Investment structure for Future Equity=将来の公正のための長期的投資スキーム 試作1)と名付け、タームシートも公開しています。

投資第一号案件は、福島の農家の所得向上と、都心で働く女性の生きやすさの向上を目指した事業を展開している株式会社陽と人(ひとびと)です。

ゼブラは地方に眠る。ぼくらが「陽と人」小林味愛さんに投資を決めた“非合理”という可能性のイメージ
https://www.zebrasand.co.jp/990

福島の地域課題と、都心に住む女性の課題の両方を解決しようとしているゼブラ企業で、資金だけでなく、経営も支援することで、課題解決に寄与したいと考えています。

経営支援の事例としては、島根県の石見銀山生活観光研究所との協業があります。

世界文化遺産に指定された石見銀山を中心とした地域に、持続可能な地域全体のビジネスモデルと「思いあるファイナンシャルプラン」を構築し、未来の子供たちが誇れる町づくりを目指しています。

温かいお金の流れをつくる。世界遺産・石見銀山を舞台に「群言堂」と作る、思いを込めたファイナンシャルプランとはのイメージ
https://www.zebrasand.co.jp/522

思いを持ったゼブラ起業家と共感する投資家や地銀をつなぎ、資金調達・事業開発を促していく。そういった支援をしています。

──Zebras and Companyの今後の展望を教えてください。

有力なゼブラ企業を発見し、投資と支援を通じて長く、大きく成長させること。その成功例を生み出しながら、ゼブラ企業の概念がすべての企業にインストールされる状況を作っていきたいと思っています。

そのために、より多くのプレーヤーがこの市場に参入する状況を作ることも、私たちの役割だと考えています。

志をともにするプレーヤーが増えれば、ゼブラ企業のマーケットは大きくなり、新しいエコシステムが生まれていく。既存の資本主義の制約を乗り越えた、ビジネスの新しい可能性を切り開いていきたいと思っています。