「働きがい」のある会社って、どうすれば見つかりますか?

30歳をキャリアの分岐点ととらえ、転職を考える会社員は少なくありません。本連載の主人公「サードくん」もその一人です。大手通信機器ベンダー営業職の29歳。現在の仕事や待遇に大きな不満はないものの、やりがいや目標も特になし。そんな現状に漠然と不安を抱き始めたサードくんが、転職や将来にまつわる悩みをさまざまな転職エージェントに打ち明けていきます。

今回のお悩み

半年前に今の会社へ転職したものの、大企業ならではの管理主義や減点主義が肌に合わないと感じ始めたサードくん。早くも仕事へのモチベーションを失いつつあるが、転職直後ということもあり、なかなか次のアクションを起こせずにいた。こんなモヤモヤを抱えたまま、いつまで今の会社で働けばいいのだろうか? そもそも、自分にフィットする会社、働きがいのある会社はどうすれば見つかるのだろうか?

今回のエージェント

佐藤雄佑(さとう・ゆうすけ)
 株式会社ミライフ代表取締役。新卒でベルシステム24に入社し、マーケティングの仕事に従事。そこで「やっぱり最後は人」だと思い至り、リクルートエイブリック(現在のリクルートキャリア)に転職。法人営業、支社長、人事GM、エグゼクティブコンサルタントなどを歴任。MVP、MVG(グループ表彰)などの表彰を多数受賞。2016年、株式会社ミライフを設立。働き方改革事業、戦略人事コンサルティング事業などを展開している。著書に『いい人材が集まる、性格のいい会社』(CrossMedia Publishing)がある。

転職を考える前に“理想未来”を描いてみる

サードくん:今の会社は自分に合っていない気がします。でも、転職直後ということもあって、いま動くべきかどうか迷っています。すぐに辞めたらキャリア的にも見栄えが悪いし、しばらくは我慢してここで働き続けるべきですかね?

佐藤さん:その前に一つお聞きしたいのですが、サードくんはそもそも「自分がどうなりたいか」を考えたことはありますか?

サードくん:そうですね。「ある」と言えば嘘になります。

佐藤さん:つまり、ないんですね。私は転職で最も大事なのは“理想未来”を描くことだと思います。要するに、自分が「将来どうなりたいか」を軸にキャリアを考えるということですね。その未来にたどり着くためにベストな選択はどれなのか? 今の会社で成果が出るまで頑張ったほうがいい場合もあるでしょうし、逆に今の場所でどんなに実績を作っても自分の理想未来につながらないのであれば、無理に残り続ける必要はない。転職という選択肢も含め、1日も早くアクションを起こしたほうがいいと思います。

サードくん:理想未来かあ。正直、具体的に考えたことはなかったです。でも、それって言わば人生のテーマみたいなものですよね。そう簡単に見つかるものとも思えないのですが……。

佐藤さん:最初から完璧な答えを出そうとしすぎていませんか? それでずっと悩んでしまうくらいなら、とりあえず現時点での理想を想像してみて“仮置き”してみましょう。その上で、そこへ向かうためにはどうすればいいか考えることで、第一歩を踏み出せます。すると、少しだけ“今”が変わる。その積み重ねが未来を作るのだと思います。ちなみに、理想未来は何度変わったっていいし、一つである必要もありません。

サードくん:考えるにあたって、何かしらとっかかりがあると嬉しいのですが。理想未来を描く手順のようなものはありますか?

佐藤さん:理想未来の構造は、“being”と“doing”から成り立っています。beingは自分らしさや大切にしたいもの、譲れない思いといった価値観のことです。業界や職種というよりは、スタンスやカルチャーの要素ですね。一方のdoingは業界や職種も含めた、具体的にやりたいことを指します。これを見つけるには、自分はどんな時に熱中できているのか、心地よく働けているのかを探ってみるといいでしょう。

もし、それでも自分がやりたいことや価値観がすぐに分からないなら、逆に“やりたくないこと”を削っていくのがいいと思います。サードくんのように「やりたいことが分からない」という人は多いのですが、やりたくないことってわりと明確に出てくるんですよね。ですから、その選択肢をどんどん切っていけば、おのずとやりたいことが見えてくるのではないでしょうか。そうしたら、あとは選ぶだけですよね。

サードくん:なるほど。ちょっと考えてみるので時間をください。……ああっ、ダメだ〜!

佐藤さん:どうしました?

サードくん:しょうもないことしか思いつきません……。「上司に怒られたくない」とか「満員電車電車に乗りたくない」とか。

佐藤さん:それで全然いいと思いますよ。そこから「満員電車に乗らずに済む方法」を考えることで、在宅勤務という働き方の選択肢も浮かんできますよね。大切なのは、とにかく思考を動かすことですから。

「性格のいい会社」とは?

サードくん:そういう意味では、今の会社って「やりたくないこと」だらけかもしれません。大手の有名企業で安定しているけど、管理主義で息苦しいし、減点主義的なところもあるから失敗が怖くて新しいことにチャレンジできない。結果、上司に言われたことを無難にこなしているだけで、「仕事をしている」っていう手応えが得られないんですよね。

佐藤さん:サードくんはどちらかというと、仕事に働きがいを求めているようですね。となると、確かに今の環境はフィットしていないかもしれません。ちなみに、どういう基準で今の会社を選んだんですか?

サードくん:業界ナンバーワンでキャリアに箔がつくし、めちゃくちゃ給料がいいからです!

佐藤さん:正直すぎて清々しいですね。でも、それって言わば「外見」のみで会社を選んでいますよね。サードくんが本当に選ぶべきは、外見ではなく「性格のいい会社」だったのではないかと思います。性格のいい会社とは、端的に言うと“人材ポリシーがある会社”です。つまり、人材に対して確固たる考え方があり、一人ひとりにしっかりと向き合う会社ですね。また、大手企業では得られないような働きがいや、多様な働き方を柔軟に提供している中小・ベンチャー企業も「性格がいい」と思います。

サードくん:うちの会社は性格が悪かったのか……。

佐藤さん:そうは言いませんが、サードくんの会社は大手だけに人気があり、毎年のように新卒を大量採用しています。そうなると、どうしてもヒエラルキーは生まれますし、一人ひとりに対する会社の依存度は低くなります。つまり、いくら優秀だとしても現時点では“替えがきく人材”に過ぎないわけです。だから、社員個々の働きがいがどうとか、そこまで配慮する必要もない。結果、大手はガチガチに管理して、会社の求めに応える人間が評価される傾向があります。

サードくん:「性格のいい会社」は逆に、一人ひとりが働きがいを感じられるような環境や仕事を与えてくれるってことですか?

佐藤さん:いえ、「与えてくれる」わけではありません。あくまで自分が頑張って掴み取る必要があります。性格がいいベンチャー企業は社員に対して“性善説”で向き合っていて、一人ひとりに自立自走を求めます。つまり、「このメンバーは優秀で、好きなようにやらせてもしっかり成果を出してくれるはずだ」という信頼のもと、自由な働き方を許容しているわけです。

サードくん:つまり、自由と責任がセットで、当たり前のように成果が求められると。

佐藤さん:そうですね。誤解してほしくないのは、「性格がいい会社」=「やさしい会社(甘い会社)」ではないということ。むしろ、全くやさしくはありません。一人ひとりの裁量が大きく自由な働き方が認められているぶん、相応の責任を果たさなければいけない。そういう意味で、性格のいい会社は自立自走できる人にとってはパラダイスかもしれませんが、同時に「自分でなんでもやらなければいけない苦しさ」もあることを知っておいたほうがいいでしょう。

性格がいい会社には、魅力的な「ビジョン」「成長」「仲間」がある

サードくん:性格がいい会社かどうかを、事前に見分けるポイントはありますか?

佐藤さん:私は“働きがい”とは「ビジョン」「成長」「仲間」。この3つの要素で構成されていると考えます。まず「ビジョン」ですが、そもそも自分がそれに共感できることが大前提です。その上で、単に耳障りのいいフレーズを掲げているだけでなく、「言っていること」と「やっていること」が合致しているかどうかが重要ですね。

次に、「成長」。これには、年齢や入社時期に関係なく、責任ある仕事をどんどん任せてもらえるかどうかが大事になってきます。そして、結果を出せばのし上がれるチャンスがある。そうした成長の機会に恵まれているかがポイントですね。

最後に「仲間」。会社のビジョンをポジティブにとらえ、同じ方向に向かって働いている人が多いかどうか。少なくとも、会社の愚痴を言う人が多い会社や、社内政治ばかり激しくてギスギスしている会社よりは、そうした前向きな仲間が多い環境のほうが楽しく働けるはずです。

サードくん:「ビジョン」「成長」「仲間」……。

佐藤さん:そう、「ビジョン」「成長」「仲間」です。ビジョンは企業のウェブサイトや代表者のインタビュー記事などから「言行不一致かどうか」も含めて、ある程度はチェックできます。「成長」「仲間」は、なかなか外からはかれない部分ですが、それこそ我々のようなエージェントから客観的な意見を仰ぐという手もあるでしょう。実績のあるエージェントはさまざまな会社の実態を知っていますし、そこが転職希望者にフィットするかどうかも含めてフラットな意見をくれると思います。

「意志ある転職」が評価される時代に

サードくん:佐藤さんのおかげで、自分が向かうべき方向、入るべき会社がなんとなく見えてきたような気がします。

佐藤さん:それならよかったです。ただ、ひとつお伝えしておきたいのは、「自分の理想を100%叶えてくれる会社は存在しない」ということです。もしそれを求めるならば、自分で起業するしかありません。おそらく転職を重ねるうちに、多くの人がそのことに気づくのではないでしょうか。サードくんだって、一社目から転職する際は、「ないものねだり」で大手企業を志望したわけですよね? でも、実際に入社してみたら、もうすでにズレを感じてしまっている。

サードくん:そうですね。正直、考えが甘かったとは思います。

佐藤さん:そのことに気づけただけでも、大きな収穫だったんじゃないでしょうか。それに、自分の理想未来って、やはり何社か経験するなかで軸が定まってくるものですからね。そして、その理想未来に近づくために重ねた転職のキャリアは、必ず評価されていくと思いますよ。

サードくん:とはいえ転職回数が多すぎると印象悪くないですか?

佐藤さん:確かにこれまでは、長く同じ会社にいる人のほうが忠誠心があり、真面目に働いてきたイメージがあったかもしれません。しかし、今後はキャリアアップを重ねながら複数社を生き抜いてきた人のほうが“生命力”や“変化適応力”があると判断され、評価される時代になっていくと思います。

サードくん:「性格のいい会社」にも、そういう人が求められるのでしょうか?

佐藤さん:そうですね。特にアーリーステージのベンチャー企業などは、これから成長していくにしたがってどんどん環境が変化していきます。そこで働く際に求められるのは、“カオス耐性”ではないでしょうか。複雑でストレスがかかるカオスな環境下でも、当たり前のように当事者意識を持って最後までやり切る。サードくんにその覚悟はありますか?

サードくん:「ある」と言えば嘘になります。でも、そうなれるよう頑張りたいとは思っています。

佐藤さん:ちょっと目の色が変わってきましたね。ぜひ頑張ってください。