“そうでない人”にも広がる「LGBTフレンドリー」な会社選び。なぜ働きやすいのか

ダイバーシティの重要性に対する認知が広がるなか、企業の人材採用においても「LGBTフレンドリー」が重視されつつある。実際に「LGBTが働きやすい」とはどういうことか。そして、なぜ「LGBTも、そうでない人も」LGBTフレンドリー企業に注目するべきなのか。LGBT求人情報サイト「JobRainbow」を運営する共同創業者の星真梨子氏に、企業がLGBTフレンドリーを目指す意味と、人がLGBTフレンドリーな会社を選ぶ価値について聞いた。

星真梨子/JobRainbow 共同創業者 取締役COO
1989年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、日本のマイノリティーの生きづらさへの関心から、法律家としてアプローチするため、東京大学法科大学院へ進学。性や偏見のしがらみなく生きられる社会の実現をめざし、2016年、弟の賢人さんとともに株式会社JobRainbowを設立。LGBTに理解のある企業の情報紹介や、企業がLGBTの人を受け入れるための研修コンサルティング、イベント事業などを行う。

2015年からLGBTフレンドリーが加速

──ここ数年で「LGBTフレンドリー」を表明する会社が増え始めています。何がきっかけだったのでしょうか。

大きなきっかけは2つあって、1つは行政の動きです。2015年にアメリカで同性婚が認められ、日本では全国に先駆けて渋谷区がパートナーシップ制度を導入。日本で同性婚はまだ認められていませんが、自治体単位で同性パートナーを認める動きが始まったのは大きなインパクトになりました。

もう一つは、東京オリンピックです。オリンピックは平和の祭典でもあり、人権に配慮したイベントである必要があります。だから、2013年に東京招致が決定した後、スポンサーとなる大手企業がこぞってLGBTへの差別を排除する準備を始めました。

実際、2015年頃からソニーやパナソニックなどが、同性パートナーシップ制度やLGBTに対する差別を許さない就業規則を導入していますし、それに追随する形で中小企業にも広がっていきました。

──それらの企業では、具体的にどんな変化が起き、何が明文化されたのでしょうか?

そもそも、日本の人口のうち約8%はLGBTと言われています。就業規則や社員の行動規範で、人種や国籍、障がい、性別で差別をしてはいけないという「差別禁止規定」を持つ企業がほとんどです。そこに、性的志向や性自認に基づく差別をしないというキーワードを入れる企業が増えました。

また、同性パートナーシップ制度を導入した企業では、「家族」の定義に同性パートナーが含まれるようになり、冠婚葬祭に対するお祝いやお見舞い、お休みなどの権利を得られるようになる、などの変化が起きました。

人の多様性がイノベーションの源泉に

──東京オリンピックが終了した後も、LGBTフレンドリーを目指す動きが加速しています。何が影響しているのでしょうか?

企業視点でいうと、「グローバルスタンダードに合わせよう」という動きと、「労働市場における人材不足」が影響していると思います。

LGBTに限らず、世の中的にも「自分らしくいられる場所」を求める声が増えています。

Z世代もその思考が顕著ですが、物質的に豊かになった現代において、年収の高さよりも「自分らしい生き方・働き方」ができることを求める人が増えています。

それによって、多様性を認められない企業の人材採用は難しくなっているんです。

加えて、組織の多様性が「イノベーションの源泉になる」という認識が広がったのも大きなポイントです。GAFAはまさにその象徴で、多様な人の活躍が企業成長に直結することが証明されました。

アメリカでは、ゲイ指数が高い街はイノベーションによる発展をしやすいというデータもあるほどで、経営戦略に多様性は無視できません。

日本でも、2020年6月にパワハラ防止法が施行され、性自認や性的志向に関するハラスメントである「SOGIハラ」もパワハラになると認定されています。

さまざまな側面から、人の多様性を企業が認めないわけにはいかなくなり、LGBTフレンドリーを目指す動きが加速しているのです。

「今この場にLGBTの方がいるかもしれない」と想像できるか

──LGBTに対する偏見や差別は、一昔前に比べると減ったと思いますが、実際はどうでしょう。

5、6年前までに比べれば、最近は年配の方にも言葉の認知は広がっています。一方でまだまだ課題なのは、「LGBTの方が今この場にいるかもしれない」と想像できる人がものすごく少ないことです。

さまざまな調査結果からも、「職場でLGBTであることをカミングアウトした、もしくはカミングアウトされた」人は全体の1割程度しかおらず、大半の人が「自分の職場にLGBTの人はいない」と思っています。つまり実態が見えていない。

その現実が引き起こしているのが、日常の中で無意識な差別や偏見から相手を傷つける言動=「マイクロアグレッション」です。

たとえば、異性愛者を前提とした「彼女はいるの?」といった質問や、女性だから「ちゃん」付けで呼ぶなど、悪気のないコミュニケーションが、無意識に人を傷つけている可能性があるのです。

──とはいえ、必ずしもカミングアウトが正解にならないケースもありますよね。

その通りなんです。まれに、企業内でLGBTフレンドリーの施策として「カミングアウトする社員を何%まで増やそう」と数値目標を掲げる話を聞いたこともあるのですが、それではカミングアウトを強制することになりますよね。

当事者は、「上司に悪く思われるのではないか」「評価に響くのではないか」「同僚から距離を置かれるのではないか」など、何か1%でも不安があればカミングアウトしません。できないんです。

大切なのは「カミングアウトしやすい環境を作ること」。そのためにはトップや役員、人事など、取り組みのコアになる人が学び続け、アップデートし続けることが必要です。

小さな違いの尊重が、企業成長につながる

──LGBTフレンドリーを目指す会社は「人と向き合う会社」だと言えるでしょうか。

そうだと思います。LGBTの課題に取り組むことイコール、目に見えない個々の“違い”を尊重し、それを会社の活力にするという覚悟の表明です。

つまり、LGBTだけでなく、さまざまなマイノリティを持つ全ての人にとって、働きやすい環境を作りますと宣言しているのと同義なんですね。

私は、突き詰めれば人は必ず何かしらのマイノリティ性を持っていると思います。

それは病気や介護、育児などわかりやすい事情もあれば、発達障害や何かが人より上手くできないといったものもあります。

多くの人に知ってほしいのは、LGBTフレンドリーの取り組みは、単純に「困っている人」や「立場の弱い人」に寄り添い、守るためのものではないということ。

自分と相手のマイノリティ性に気づいて、それを尊重し合う職場づくりをすることであり、それは心理的安全性と創造力を高め、会社を成長させることにつながります。

実際、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)に取り組む企業は創造力に優れ、イノベーションによる収益が高いというデータもあるほど。変化が激しい時代で、生き残る会社を見極める良い指標になると思います。

これからは、一人一人の小さな違いも認められる土壌があるかないかで、企業の明暗が分かれることになるでしょう。

地方企業や中小企業ほど、D&Iで変われる

──現在、求人サイトである「JobRainbow」に登録する企業は東京がメインですか?

東京が圧倒的に多いです。ユーザーも関東圏が半分以上。地方の狭いコミュニティでは共感できる特性を持つ人に会いづらく、噂も広まりやすいからと、東京に出てくる人も多かったりします。また、東京の方が自分の個性を自覚しやすい環境があるかもしれません。

https://jobrainbow.jp/

ただ、JobRainbowが開催している企業のD&Iを評価する認定制度「D&I AWARD」では、地方の中小企業からのご応募も増えてきました。

実際、2021年の中小企業部門では愛知県の運送会社が大賞を受賞しています。

──運送会社ですか。

運送会社はいわゆる男社会のイメージがありますし、実態もそのケースがほとんど。でも、誰もが長く働き続けられる会社にするためには、会社が変わる必要がありますよね。

そこで、女性も働きやすく、活躍できる会社に変えるところからD&Iに取り組み、今では地方の中小企業のダイバーシティを牽引する存在になっています。

地方企業や中小企業こそ、D&Iに取り組むことが大きな変化につながっていくと思います。

キャリアの物差しは、人の数だけあっていい

──JobRainbowが実現させたい働き方やキャリア、社会を教えてください。

セクシュアリティの観点では90%以上の人がマジョリティで、LGBTの人は10%以下のマイノリティです。だけど、それ以外の点は、誰もが何かのマイノリティであることは間違いありません。

だからLGBTだけでなく、性別や障がい、育児、介護、年齢、病気、あらゆる違いが彩りになる社会、いろんな違いを持つ全ての人が生きやすい社会を作りたい。

周りの人に言わないだけで、人は誰もがいろんな違いを持っています。違いというとネガティブに捉えられがちですが、得意なことや魅力も違いの一つ。違いがその人を作っているし、違いがなければ自分を証明できません。

キャリアに関しても、指標となる物差しは人の数だけあっていいと思うんです。今までのように、企業の中で出世し肩書を持つこと、上のポジションを目指すことだけに目を向ける必要はないと思っていて。

──社名のブランドや肩書、年収だけが指標じゃない、と。

そうです。そもそも、人にハイクラスもロークラスもないですし、その人がその人らしく価値を発揮できる会社で働くのが一番幸せなことですよね。

企業からしても、高学歴やハイキャリアの人だけでなく、本当にミッションやビジョン、価値観に共感して活躍してくれる人と出会いたいはず。

だから、JobRainbowでは人にとっても企業にとっても誇れるマッチングを実現したいと考えています。実際、LGBT以外の人も活用いただいており、LGBTフレンドリーな会社=ヒューマンフレンドリーな会社との出会いがたくさん生まれていますよ。

──今までの物差しでキャリアを築くことが、やりたいこととは限らない。

やりたいこととも、本当にその人が活躍できるとも限らないですよね。人生のほとんどの時間を仕事に費やすからこそ、自分らしくいられる環境に身を置くのは大事なこと。

長い時間を過ごす場所でストレスを感じることなく、自分のアイデンティティとマッチした環境でやりたい仕事をできたら幸せですよね。

それが当たり前で素敵なことだと思える世の中になれば、全ての人が自分らしい生き方・働き方のできる、幸福度の高い社会になると思っています。

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執筆:田村朋美
撮影:後藤渉
取材・編集:呉琢磨

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