【OpenWork 大澤陽樹】その会社で本当に大丈夫? 社員クチコミが作る、これからのキャリア

自分のキャリアは自分で決める時代に突入した現在。目先のキャリアではなく、中長期視点でのキャリア形成を考えるために必要不可欠なのが、当事者の「クチコミ」だ。企業が発信するメッセージより、実際に働いている、もしくは働いていた人のクチコミを信頼する人が増えている。そこで、社員クチコミのプラットフォームであるOpenWorkを運営する大澤陽樹氏に、クチコミが作るこれからのキャリアについて話を伺った。

大学生の2人に1人はOpenWorkを活用

──就職や転職にOpenWorkの社員クチコミを活用する人が増えていますが、実際に「クチコミ市場」は拡大しているのでしょうか。

クチコミ市場というのが明確にあるとは言えませんが、利用者もクチコミ数も明らかに増えています。

オープンワーク株式会社 代表取締役社長 大澤陽樹
東京大学大学院卒業後、リンクアンドモチベーション入社。中小ベンチャー企業向けの組織人事コンサルティング事業のマネジャーを経て、企画室室長に着任。新規事業の立ち上げや経営管理、人事を担当。2019年11月、オープンワーク取締役副社長に就任。2020年4月、同社代表取締役社長に就任。

2013年は70万件だったクチコミと評価スコア数が、僕が入社した2018年には450万件に。そして現在は1200万件を超えました。特に直近2、3年で急激に増加しています。

──それだけ、クチコミを書きたい人も読みたい人も増えたのですね。

昨年、就職活動でOpenWorkを利用していた大学生は25万人弱いました。これは、その年の就活生の約2人に1人が利用していたということになるんですね。

しかも、OpenWorkを使い始めたきっかけが「親からの紹介」だった学生さんもいて、驚きました。

──親御さんからですか。

そうなんです。「必ずOpenWorkを見なさい。それで問題ないと思えたら、ベンチャーでも大手でも安心して行きなさいと言われた」、と。

自分の大切な子どもにOpenWorkを紹介してくださったのは本当に嬉しかったし、世の中に浸透していることを感じましたね。

──学生の親御さんということは50代や60代ですよね。若者から広がるイメージがあるけれど、そうじゃないケースもあるのですね。

OpenWorkを利用するきっかけの1位は、先輩からの紹介です。就職活動をするにあたって、まずはOpenWorkに登録しなさいと伝える文化が受け継がれているようなんですね。

だから、年上からの紹介で広まるケースも多いのですが、そのなかに親御さんがいらっしゃったのは嬉しかった。クチコミの民主化が進んでいることを実感しました。

クチコミで、自分が求める会社を見極める

──クチコミから「働きがいのある企業」「働きやすい企業」を見分ける方法はあるのでしょうか?

あります。まず大前提として大切なのは、右上に書かれている「総合評価」を見ること。

たとえば弊社のスコアは「3.39」なので、数字だけを見るとあまり良くないのかなと思いそうですよね。でも、OpenWork上に社員クチコミが書かれている約6万社のうち、上位4%に入っているんです。

だからまずは、その会社は「上位何%に位置しているのか」を確認するのがオススメです。

その上で、「働きがいのある会社」を知りたいなら、「働きがい・成長」のクチコミを、「働きやすい会社」を知りたいなら、「ワーク・ライフ・バランス」と「女性の働きやすさ」のクチコミを見てほしい。

総合評価のスコアが高くても、「働きがい・成長」や「ワーク・ライフ・バランス」などのカテゴリによっては、評価が低いケースもあるんです。

ただ、すべてのクチコミを鵜呑みにするのは危険です。クチコミを見るときの大事なポイントは、クチコミを書いた人の「属性」を見ること。

同じ会社で働いている人でも、職種や在籍期間などによって会社の見方が変わりますよね。

──たしかに、営業会社で働く営業とデザイナーの視点は違いますね。

その通りで、たとえば総合評価は3.5でも、デザイナーの評価は3.0で、営業の評価は4.0といった会社はよくあります。だから自分と同じ属性の人がどう評価しているかを知るのが良いと思いますよ。

クチコミでわかる、カルチャーフィット

──「こんなクチコミを書かれている会社は黄色信号!」というクチコミはありますか?

人によって価値観が異なるので、Aさんにとっては黄色信号だけど、Bさんにとっては最適な会社かもしれませんよね。

だから、このクチコミが黄色信号という明確なものはないのですが、一つ判断ポイントとして言えるのは、書かれてあるクチコミを気持ちよく読み進められるかどうかです。

クチコミの一件一件をOGOB訪問と捉えて、読んでいて何か引っかかるな、違和感があるなと思ったら、それは自分に合わない会社。逆に気持ちよく読み進められたら相性がいい会社と言えるでしょう。

──会社がどうこうではなく、自分の価値観で合う・合わないを判断するのですね。

クチコミでわかるのは、その会社のカルチャーに自分が合うかどうか。だから、なるべくたくさんの会社のクチコミを見て、自分と合うカルチャーの会社を見極められるようになれば、ミスマッチを防げると思います。

──ということは、転職の一歩前で、広くクチコミを見て次のキャリアを考えるのが大切。

おっしゃる通りで、今すぐの転職は考えていなくても、次の選択肢を広げるためにいろんな会社を見ておくのは大切だと思います。

自分に合う会社の傾向がわかるようになるし、“いざ”というときに判断しやすい。何より、次のキャリアをイメージしやすくなると思いますよ。

働きがいは会社の業績に影響する

──「働きがい」や「働きやすさ」と、企業の業績や成長に相関関係はあるのでしょうか?

よく「業績が上がれば働きがいが上がるのか?」「働きがいが上がれば業績が上がるのか?」という“にわとりたまご論争”が人事界隈で巻き起こるのですが、それに対して論文(※)が発表されました。

この論文は、OpenWork上のクチコミと業績の相関関係を調べたもので、「働きがい」や「働きやすさ」を改善すると、2〜3年後の収益や成長率にプラスの影響を及ぼします。さらに、その利益を人や新規事業など内部投資に回す率が高いと、1、2年後の「働きがい」を向上させることがわかったんですね。

つまり、人や新規事業などに投資を惜しまない会社は、働きがいと業績にポジティブなサイクルが生まれるということ。

実際に、このポジティブなサイクルを回せる会社が、OpenWorkのランキングでも上位を占めていますし、人材育成への意欲や投資額が非常に高いという共通点があります。この観点も、次のキャリアを考える上では大切なポイントではないでしょうか。

(※ 一般社団法人日本金融・証券計量・工学学会 19巻(2021)に掲載された、「従業員口コミを用いた働きがいと働きやすさの企業業績との関係(西家 宏典, 長尾 智晴, 2021)」)

クチコミで見えてくる、企業の実態

──コロナ禍で増えたクチコミはありますか?

コロナ禍で増えたクチコミのキーワードは、「経営陣・マネジメント」「テレワーク」「文化・年功序列」といったものでした。

「経営陣・マネジメント」は、コロナ禍で外部環境が変化したにも関わらず、経営陣が新しい働き方に対応してくれないという、悲鳴に近いクチコミによって増加しました。

その新しい働き方に対応できない背景にあるのが、年功序列などいわゆる日本型雇用の文化ですよね。

その文化が変わらないのはおかしいというクチコミも多かったので、「文化・年功序列」といった企業文化や制度を示す単語が上位に入っています。

──そういったキーワードは、飲食や百貨店などの「業種」や、大手・中堅・中小といった「企業規模」で偏りはあるのでしょうか?

それが、業種や企業規模は関係なかったんです。

たとえば、飲食や百貨店などリアルワークが必要な会社でも、「すぐに持病や免疫不全を持つ人を調べて、販売ではなくバックオフィス業務に配置換えした」、といった会社のスコアはものすごく上がりました。

逆に、「緊急事態宣言が発令された翌日に「売り上げが下がっているのはどういうことだ」と社長に言われた」、といった会社のスコアは下がっています。

経営陣が企業文化にメスを入れられたのか、業績だけでなく従業員の命を大切にしたのか、新しい世の中に対応するためにDX化に取り組んだかなどで、大きく評価がわかれました。

自分の意思で自分のキャリアを作る社会へ

──働く側からすれば、OpenWork上のクチコミは就職や転職の良い参考になりますが、経営者や人事にとっては恐怖かもしれないですね。

恐怖だと思いますが、OpenWorkのクチコミがなかったとしても、今はインターネットで情報が漏れ出る社会ですよね。

昨年、就活中の大学生にOpenWork以外で活用したサイトやサービスを聞くと、多かったのがYouTubeだったんです。

──YouTubeですか。

OBOGたちが仮面をつけてぶっちゃけトークをする「覆面座談会」のようなコンテンツがたくさんあって、それを参考にしていると話していました。会社が発する綺麗なメッセージよりも、実際に働いていた人の声の方がリアルですからね。

ネットが浸透する以前の社会では、会社の情報はブラックボックスで、個人は会社に従うほかありませんでした。従う代わりに終身雇用を約束されていたわけです。

だけど、個人も会社も対等な関係に変わった今、会社がいかに労働市場に適応できるかが重要。クチコミに向き合わず、ガラパゴス化していくことの方がリスクだと思います。

とはいえ、クチコミに迎合する必要はなくて、トゲや特殊性があっていいと思うんですね。文化を隠さずオープンにして、それに合う人を集めるのが大切だと思っています。

──オープンな会社が増えたら、人材の流動性も上がりそうです。

そうですね。OpenWorkの目的は会社を格付けすることではなく、目立たなくても誠実な経営者が評価されて、その会社に優秀な人材が集まる世の中にすることです。

加えて、すべての人が自分の意思で自分のキャリアを選べるようになり、自分らしい生き方・働き方ができる社会を作ること。

クチコミをうまく活用することで、ワクワクするようなキャリアを選ぶ人が増えたら、未来はきっと良いものになると信じています。

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取材・執筆:田村朋美
撮影:小池大介