【KENT】全員フルフレックス・フルリモート・副業。Z世代が描くキャリア観のネクストスタンダード

1996年から2015年の間に生まれた、Z世代。インターネットの浸透とスマホやSNSの急速な普及、それに伴う社会の大きな変化と共に育ち、令和のスタートと共に社会に出た世代とも言える。Z世代が理想とする働き方やキャリアの築き方とは。「Z世代の企画屋」と称して僕と私と株式会社を経営する今瀧健登(KENT)氏に話を聞いた。

ビジネスの全てを知るために、会社員時代に起業を選択

――KENTさんは「Z世代の企画屋」として、僕と私と株式会社を経営されています。学生時代から起業を見据えていたのでしょうか?

いえ、まったく考えていませんでした。むしろ、大学の教授になりたくて横浜国立大学の教育学人間科学部で家庭科を学んでいたんです。

僕と私と株式会社 CEO 今瀧健登
Z世代の企画屋。1997年大阪生まれ。大学在学中に花贈り事業を始め、就活を経て正社員として働きながらも、副業で事業を継続。2020年に「僕と私と株式会社」を設立し、すごろく「ウェイウェイらんど!」の企画/設計を行うなど、Z世代をターゲットとした企画屋として活躍している。

家庭科は、衣・食・住と家庭、保育の5つの領域から成る、人の生活に寄り添ったとても面白い教科。小中高の教員免許も取得して、その道に進もうと思っていたのですが、大学3年生のときに転機が訪れました。

小学校の非常勤講師を経験したときに、教育業界は年功序列が根強い世界で、これでは変えたいことも変えられないことが分かったんですね。

それと同時期に知人の死に直面し、人生は一瞬だと痛感。スピード感をもって世の中を変えていくには、ビジネスの世界に身を置くべきだと就職活動を始め、2020年にリンクアンドモチベーションのグループ会社である、リンク・インタラックに就職しました。

――リンク・インタラックを選んだ理由は何だったのでしょうか。

小中高への外国語指導講師の配置や、グローバル人材育成の支援・コンサルティングを行う会社で、ビジネスから教育現場を変えられそうだと思ったのと、ビジョンに共感したからです。

ただ、内定獲得後に自分でスモールビジネスを始めていたこともあって、リンク・インタラックで働くうちに、僕にとって最適な選択肢は起業なのではないかと思うようになりました。

スピード感を持って世の中を変えていくためには、人事や法律、会計、営業などビジネスの全てを知る必要があって、それを叶えるのは会社を作ることだ、と。

だから2020年11月に僕と私と株式会社を創業し、2021年6月にリンク・インタラックを卒業しました。

創業から11ヶ月で複数事業を立ち上げ、自己資金で黒字経営

――具体的に、どんなビジネスをされているのかを教えてください。

メインはZ世代に向けた企画コンサルティング事業です。大きな実績になったのは、小瓶のお酒「クライナー」の認知拡大を目的に、「ウェイウェイらんど!」というスゴロクを企画・設計したこと。

クライナーは2017年に日本に上陸したヨーロッパ生まれのお酒です。クラブで人気が集まりましたが、コロナ禍ではクラブ自体が閉まりました。

そこで、Z世代に向けた認知と新しい販促方法を目指して設計したのが、どのマスでも止まったらとりあえずクライナーを飲むスゴロク「ウェイウェイらんど!」でした。

販売されるとすぐに、フィッシャーズや水溜りボンドなど有名なYouTuberが取り上げてくれて、商品は即日完売。クライアントにも喜んでいただいて、現在「ウェイウェイらんど!2」を設計中です。

他にも、KANGOL SALONと一緒に、Z世代のメンズ向けネイルサロンを9月末にリリースしました。ファッションの一環としてメンズに新しい価値観を提供しており、実際にネイルをした人からは軒並み高い評価をいただいています。

企画コンサル事業以外にも、ブランド事業と映像事業、Web事業を展開しており、ブランド事業はアパレルやクラフトビール、花のある生活をテーマにしたカフェなど多数のブランドを運営しています。

――創業から11ヶ月ですが、かなり多角的に事業を展開していますね。

やりたい人から事業が生まれているので、ブランドを立ち上げたい人が一人仲間になると、新しいブランドが1つ立ち上がるんです。創業して11ヶ月目ですが、アルバイトを含めて30名以上の仲間がいるので、その数に近い事業やプロジェクト、実績が生まれていますよ。

しかも、融資を受けず、自己資金で全事業の黒字経営を続けています。

――自己資金ですか!

銀行からの融資って、なんだか親のお金を借りるような感覚があって。

いずれ受けようとは思っていますが、全員フルリモートだからオフィス代はかからないし、アパレルブランドも含めて受注型のビジネスだから在庫も抱えません。健全なビジネスができているんじゃないかなと思っています。

Z世代が追求したいのは、自分らしさ

――Z世代のキャリア観に共通するキーワードは何でしょうか?

「自分らしさ」だと思います。Z世代に人気の仕事は、自分らしさを体現する仕事とSNSに関する仕事、そしてSDGsに関する仕事なんですね。

どれも原点もしくは最終的に行き着くのは「自分らしさ」だと思うんです。よく、Z世代は広告が嫌いと言われますが、それもありのままの姿を知りたいからで、すべてに共通しているかもしれません。

実際、Z世代の起業家が作るのは、自分らしさを追求するビジネスか、マイノリティの人たちを応援するプロジェクトが多いですし、D2Cなどパーソナルビジネスが流行っているのも、自分らしさの追求と関係しているのだと思いますよ。

――KENTさんの会社では、どのような働き方、キャリアの築き方を実現できるのか教えてください。

僕と私と株式会社は、フルリモート、フルフレックスで、かつフル副業とフル社長を目指しています。つまり、社員全員が社長として自分のビジネスをしつつ、副業で僕と私とに集まるモデル。

新しく立ち上げたブランドで利益が出るようになったら独立してもらいますし、自分の会社を経営しながらWeb事業の責任者として働く人もいて、グループ会社は増えています。

――今っぽい働き方ですね。社員に独立してもらうのはなぜですか?

自立した方が自由に動けて純粋に楽しいというのもありますが、目指しているのは、自立できる人が集まった最強のチームで大きなプロジェクトを立ち上げる、ビジネス版「ONE PIECE」だからです。

――では、優秀な人をピンポイントで採用している?

学びたい人ではなく、学んできた人を一本釣りしているので、社員はめちゃくちゃ優秀な人が集まっています。最初からプロジェクトリーダーとしてジョインし、必要なメンバーを採用しながら事業を作る人もいるし、自分の得意分野をフル活用する人もいます。

たとえばデザインが得意な人は、全事業・全プロジェクトに横断で関わるだけでなく、独立した人が経営するグループ会社すべてに副業で参画できます。自分の得意分野だけを仕事にできるのは、「副業」で関わることを前提にしているから。

従来のいわゆる“会社員”の働き方とは違うと思っています。

Z世代のキャリアは、転職・副業前提

――Z世代は、副業など自由な働き方を好む傾向が強いと思いますか?

副業や転職を前提に考える人は圧倒的に多いと思います。大学の友だちからも、「いい転職先ないかな」「いい副業あったら教えて」と言われることがよくありますよ。

――それは企業の人事が知っておくべきことですね。

転職前提であることを素直に会社に伝えられない人の方が多いと思うので、優秀な人がその会社に居続けたいと思える工夫は必要だと思います。じゃないと、突然抜けられてしまう可能性が大きい。

だからこそ僕は、フルリモート、フルフレックス、副業で集まる組織にしました。

しかも、創業1年未満のスタートアップですが、社員の意見を反映させて整体無料やビジネス書読み放題、タイムズカーシェアなど、15を超える福利厚生も用意。

インターンの時給は1300円スタートだから辞める人がいないし、社員もいずれ独立してもらいますが、独立後も“僕と私と”には副業で関わることになるから、「辞めるという概念がない」んです。

コロナ禍で常識とされていた「出社」の概念がなくなり、多種多様な働き方を自分で選択できるようになったのが、自由で柔軟な働き方の会社づくりにつながりました。

作られた情報ではなく、リアルな人の声を信用する

――Z世代の会社選び、キャリア選びの特徴はありますか? 

今までは就活メディアに登録して企業にエントリーするのが当たり前だったと思いますが、今はOpenWorkで新卒でも中途採用のレビューを見たり、実際に働く人と会ったりして会社を選ぶ人が多いと思います。

――KENTさん自身は、リンク・インタラックをどう見つけたのでしょうか。

「コンサル×組織」でネット検索をして、リンクアンドモチベーションを見つけました。ホームページから応募して選考を受けている最中に、グループ会社のリンク・インタラックを知った、という流れです。

就活中は、実際に選考を受けた人の話を聞くなど、信頼できる人の声をベースに活動をしていました。広告やテレビ、インターネットの“作られた情報”よりも、自分の家族や友だちの言葉が一番信頼できるので、転職もリファラル採用がますます増えると思います。

就活メディアを使わなくても、会社の中の人とSNSで簡単につながれる世の中だからこそ、会社も人事もオープンかつ正直であることがより重要になると思いますよ。

――Z世代はキャリアの築き方をどう考えていると感じますか? 

今は、働かなくても最低限生きていける社会のセーフティネットがありますよね。働かなくても生きられるなら、自分らしい働き方で幸せに生きたいと考える人が多いと思います。

周りにも、自分がやりたいことに挑戦する人は多く、なかでもSDGsや地方創生に関する仕事をする人はたくさんいます。今より環境が悪化したら、格差が広がったら、人が街に住めなくなったら、僕たちは生きていけません。それを自分たちで解決しよう、と。

実際、都内の有名企業に就職して月40万円の給料をもらっている人より、地方で農業をしながら月20万円を稼いでいる人の方が圧倒的に幸せそうなんです。自分の幸せを起点に、働き方や生き方は、もっと自由になると思っています。

Z世代の起業家が力を合わせて社会を変える

――今後、KENTさんが実現させたいことや、やりたいことを教えてください。

僕個人としては、いずれ大学の家庭科の教授と、エンジェル投資家になることを目指しています。

会社としてはZ世代の企画会社として、まずはその地位を確立させたい。企業だけでなく、山形県や南伊勢市などの自治体との取り組みも増えているので、実績を増やしていきたいです。

それから、Z世代の経営者が集まって未来をより良くする活動をしたいと考えています。

世界的に見るとZ世代の人口は多いけど、日本は極端に少ない。だから、今までの常識では成り立たなくなるビジネスや、社会のルールは結構あると思うんですね。

僕らには政治や教育を変える力はありませんが、Z世代の起業家が力を合わせて新しい常識を作り、日本人の過半数が支持するサービスを作れたら、それはきっと国に導入されるはず。そうやって少しずつでも着実に、日本の未来を作っていきたいと思っています。

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執筆:田村朋美
撮影:小池大介