キャリアの選択肢としての「ベンチャー・キャピタリスト」。その門戸は決して狭くない理由

キャリアの選択肢として“リスキー”と言われていた、スタートアップへの挑戦。これが当たり前になりつつある今、スタートアップに投資する「ベンチャー・キャピタリスト」の存在感も増している。かつては極めて少なかったVCのポジションは広がり、独立系VCの数も増加。新卒や20代からベンチャー・キャピタリストの道を歩む人物も登場している。その先駆者であり、20代でシードファンド「THE SEED」を立ち上げた廣澤太紀氏に、ベンチャー・キャピタリストというキャリアについて話を聞いた。

廣澤大紀/THE SEED 創業者 ジェネラル・パートナー
2015年シードVCに入社。新規投資先発掘や投資先支援に従事。2018年9月 独立し、シードファンド「THE SEED」を設立。2021年3月 2号ファンドの設立を発表現在、1、2号で約16億円を運用。20代の若手起業家へ創業出資。無人カフェロボット「ルートC」、農業技術のSaaSサービス「AGRIS」やVR/AR事業など、現在10数社へ創業投資。

20代の起業家が成功する理由を知りたかった

──廣澤さんがVCのキャリアを進むに至った理由を教えてください。

最初にベンチャー・キャピタル(VC)の存在を知ったのは大学1年生の頃でした。僕の家系には個人事業主や小さな商店を営む経営者が多かったこともあって、事業とはいきなり大成功をおさめるものではなく、「経営者が年齢を重ねるごとに成功に近づくもの」だと思っていたんですね。

この固定観念を崩されたのは、2000年代前後に20代で大成功したいわゆる“ヒルズ族”が登場したこと。これが衝撃的で、「20代で成功する」とはどういうことなのか、その理由を知りたいと思うようになりました。

そこで、エンジェル投資家もしていた大学の教授に話を聞いて知ったのが、VCの存在です。さらに、East Venturesの松山太河氏のインタビュー記事を読んで、ベンチャー・キャピタリストの仕事に興味を持ちました。

早速、起業家やスタートアップと接点を持つために、当時住んでいた関西のスタートアップでインターンをしたのですが、比較的規模が大きい会社だったので経営者との距離が遠くて、自分がやりたい仕事をイメージできなかったんですね。

僕はとにかく松山太河さんに憧れていたし、松山太河さんのようになりたかった。それならば直接VCの方の下で働かせてもらおうと決意して、大学3年生のときに住んでいた関西の家を解約して、上京しました。

知っている限りのスタートアップの方々に連絡をとって、「VCで雇ってもらえるまで帰るつもりはない」という決意をお話していくなかで、偶然お会いしたEast Ventures の方に、松山さんをご紹介していただくことができたんです。

──退路を絶って、本気でアプローチした先に道が拓けたわけですね。松山さんのどこに惹かれたのでしょうか?

松山さんは、「シリコンバレーでは、成功した起業家が次の世代の起業家にお金とノウハウを提供するエコシステムができている。日本にはそれがほぼないから、スタートアップが成功しづらい。だから、自分が次の世代にお金とノウハウを提供する立場になる」といったことをメディアの取材で話していたんです。

(参考記事:「僕がエンジェル投資家になったわけ(前編)──松山太河氏インタビュー」

まさに、僕が知りたいと思っていた、若手起業家が成功する理由の“ど真ん中”を作ろうとしていたのが松山さん。本当にかっこいい人だと思いました。

起業家と向き合う覚悟と責任」を持つために独立

──インターンでEast Venturesに参画後は、現場で VCの仕事を学んでいったのでしょうか。

そうですね。とはいっても、初めはできることが何もないから、投資先が移転するときにデスクや椅子を組み立てたり、コワーキングスペースの掃除をしたり(笑)。毎週のようにそんな仕事をしていました。

でも、起業家をものすごくリスペクトしている松山さんと一緒に、起業家の話を聞く機会をたくさん得られたのは、本当に貴重で良い経験でした。VCの仕事は、起業家をリスペクトして投資し、応援することなんだと理解したんです。

──その後、独立してシードファンド「TFE SEED」を立ち上げています。どういった背景があったのでしょうか。

2015年にEast Venturesに入社して、いろんな起業家にお会いしてお話をするうちに、僕と起業家では、「意思決定の重みが違う」と感じるようになりました。

起業家は必死にお金を集めて事業を作り、従業員に給与を支払うなど、多方面で大きな責任を背負っています。

僕も出資者からお預かりしたお金に責任を持ち、起業家に出資して応援し続けるには、起業家と対等に向き合えるだけの覚悟と責任が必要だと思ったんです。

だから、2018年に独立し、シードファンドの「THE SEED」を立ち上げました。

https://theseed.vc/

──投資家としてのスタンスが決まったとき、独立が決まった。

そうです。THE SEEDは、スタートアップエコシステムの歯車の一つとして、成功した先輩起業家の知見とお金を、創業初期の若手起業家に循環させる役割を担うために作りました。

創業初期に投資をするということは、会社や事業ではなく、起業家の人生に対して投資するということ。仮に事業に失敗しても、2社目を立ち上げるなら投資し続けたいし、挑戦する人たちに声をかけられる存在であり続けたいと思っています。

会社ではなく、起業家の人生に投資している

──具体的に、どのような起業家を支援しているのか教えてください。

設立からの4年間で約20社に投資してきたのですが、その中から2社の事例を紹介します。1社目は「あらゆる業界を無人化する」をビジョンに、AIカフェロボット「root C」などを提供しているNew Innovationsという会社。

https://newinov.com/

社長の中尾渓人さんと出会ったのは、彼が大阪大学に入学して1年目のときでした。

当時、具体的なプロダクトはなかったのですが、彼は作りたい世界を実現するために、とにかくいろんなことをリサーチし、実際にアクションを起こして検証していました。ただ、最後のピースがはまらない、具体的に何をすべきか定まらない状態だったんですね。

話を聞いて、この悩みはサポートできると確信し、ファンドが立ち上がったタイミングですぐに投資をしました。まだ誰にも知られていない18歳の大学生起業家への投資実績は、初めて起業する人に最初に投資した、わかりやすい事例だと思います。

2社目は、農業DXによって持続可能な農業と地域をつくることを掲げ、産地の栽培現場や生命科学研究を支援するAGRI SMILEという会社です。

https://agri-smile.com/

社長の中道貴也さんは大学時代、農業に関する研究に取り組み、第25回地球環境大賞で「農林水産大臣賞」を受賞するなど、研究において実績を持っていました。

卒業後は、ビジネスの観点から農業を活性化させるべく就職をしたものの、やりたいと思っていた農業に関する事業ができなかったそうで、起業の相談を受けたんですね。

そこで、会社や事業はどうやって作っていくのか、資金調達にはどんなメリット・デメリットがあるのかなどを何度もお話しし、投資させてもらいました。

VCに関わるなら、いまは絶好のタイミング

──廣澤さんは学生からVCのキャリアを選択しましたが、同じように20代の就職先としてVCを選択肢に入れることについて、どんな考えをお持ちですか?

もし興味があるなら、今はすごくチャンスの多いタイミングなので関わった方がいいと思います。

というのも、10年前とは業界の状況が全く違うからです。投資実績を積んだ投資家の先輩方が組織を拡大しているので、インターンや中途採用を含めて採用の間口が圧倒的に広がっていますし、ポジションも増えています。

それに、佐俣アンリさんのように、シードファンドを20代で独立して実績を作り、今では100億円以上を運用するような若手独立のロールモデルも出ているので、次のキャリアも描きやすい。

若い起業家も増えており、その人たちに対して若い投資家ならではの寄り添い方ができるはずなので、経験の少ない20代の就職先にVCを選んでも、価値を発揮しやすいと思います。

──この10年間でVC業界が成長し、拡大しているのですね。VCに参画するための条件はあるのでしょうか?

条件はないと思って構わないです。

ファンドと言ってもさまざまで、創業初期の会社にどんどん投資するファンドもあれば、限られた会社だけに追加投資をするファンド、THE SEEDのように創業初期の人物に対して投資するファンドもあります。

だから、スキルよりもファンドの投資方針に共感できるかどうかと、中長期的に投資先の人を応援し続ける覚悟を持てるかどうかが大切。あえて条件として設定するなら、良いときも悪いときも応援できる覚悟を持てることかもしれません。

もちろん、財務やマーケティング、デザイン、エンジニアなどのスキルがあれば、それは強みとして発揮できます。どんなバックグラウンドを持つ人でも、VCに興味があってやりたいなら活躍できると思います。

覚悟さえあれば、どんな経験も武器になる

──VCは金融やコンサル出身者が多いイメージがありますが、そうでもないのですか?

ファンドによりますが、コンサルが多いファンドもあれば、事業会社で新規事業を立ち上げていた人が多いファンドもあります。海外には、デザイナーがチームを組んで支援するファンドもあるなど、かなり幅広いんです。

むしろ、今はどんなスキルでも武器になると言えるので、たとえば営業スキルを持っているなら、忙しい起業家の右腕となってクライアントを開拓し、そのナレッジを社内に浸透させたら価値が高い。年齢や職種は関係ありません。

──スタートアップが求めるさまざまなリソースを提供できれば価値が発揮できる、ということですね。

そうですね。だから、いろんなスキルや経験、強みを持つ人に、業界へ参入してほしいです。

起業家をリスペクトして支援する人が増えれば増えるほど、スタートアップの成功確度は上がりますし、日本のスタートアップエコシステムは強化されます。

最近では、VCを経験し起業する人、起業を経験してファンドをはじめる人も出始めているので、より一層、スタートアップエコシステムは強化されるでしょう。

だから、「起業家や経営者と仕事をしてみたい」と思うなら、次のキャリアとしてVCで働くことを検討したり、副業で関わる道を模索したりするのは良い判断だと思います。

もちろん、関わるからには起業家をリスペクトし、応援する覚悟を持つことは必要ですが、僕は凄く面白い仕事だなと思っています。

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構成:田村朋美
撮影:岡村大輔
取材・編集:呉琢磨

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