「DeNAは人間に異常なほど興味がある組織」超成長企業の厳しさと大きな愛

特定の企業から輩出された優秀な人材とそのネットワークは、「マフィア」と呼ばれることがある。イーロン・マスクやピーター・ティールを輩出したペイパル、つまりペイパルマフィアが代表格だ。人材輩出企業出身のマフィアたちはどんなキャリアを思い描き、どんな経験をして、次のキャリアに羽ばたいていったのか。 今回は、DeNAを経た3名の起業家が集結。完全栄養の主食を開発・販売する「ベースフード」の橋本舜氏と、フードデリバリーサービス「Chompy」の大見周平氏、そして薄毛の悩みを解決するAGAブランド「ヘアテクト」の西村マサヤ氏に話を伺った。彼らのキャリアの原点に迫る。

DeNA“っぽくない”事業を始めた3名の起業家

──みなさん、DeNAを卒業後に起業しています。どんな事業を展開しているのか、あらためて教えてください。

橋本 僕は「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに」をミッションに、1食で1日に必要な栄養素の1/3がとれる完全栄養の主食を開発・販売するベースフードを経営しています。

DeNAには2012年に入社後、4年半在籍しました。大見君とは同期です。

大見 橋本君は当時から変わらず真っ直ぐで、ガッツがあって賢い。まさにDeNAの人という印象があります。ただ、食をテーマに起業したのは意外でした。

ベースフード株式会社 代表取締役 橋本舜
1988年生まれ大阪府出身。東京大学教養学部卒業後、株式会社DeNAに新卒入社し、オンラインゲーム事業を経て新規事業を担当する。2016年、ベースフード株式会社を創業し、「主食をイノベーションして、健康をあたりまえに」をミッションに掲げ、世界初の完全栄養の主食BASE PASTAを開発し販売開始。

──意外、ですか?

大見 う〜ん、そうですね。ベースフードはビジョンドリブンな会社ですが、DeNAはオポチュニティドリブンで、そういうトレーニングを受けてきたんです。

今は、DeNAを卒業してビジョンドリブンな会社を創業する経営者も増えましたが、当時は少なかったので、僕の知らない橋本君を見た気がしました。

橋本 僕も、大見君が食に関するビジネスを立ち上げたのは意外でしたよ。

大見 たしかに、DeNA時代はゲーム事業と自動車事業、トラベル事業に携わっていたので、起業してフードデリバリーサービス「Chompy」を立ち上げたのは意外に見えたかもしれません。

株式会社Chompy 代表取締役 大見周平
2012年にDeNAに新卒として入社。入社後、韓国ゲーム事業・Anyca・DeNAトラベルに関わり、2019年に株式会社Chompyを創業。「まいにちの食事」を豊かにするべく、Chompyを立ち上げ中。

──他に同期で起業している方は?

橋本 多いですよ。たとえば、キャリアSNSのYOUTRUSTを立ち上げた岩崎由夏や、ドローンの会社CLUEを立ち上げた阿部亮介。

大見 10人くらい起業しているよね。そもそも同期が100人くらいいたので、母数が多いというのもありますが。

──10人に1人が起業していると考えると多いですね。西村さんは二人より後にDeNAに入社していますよね。

株式会社EPIC DAY 代表取締役 西村マサヤ
Red Bullにてブランドマーケティングを学んだ後、DeNA新卒入社。ヘルスケア領域で複数の新規事業立ち上げを経て、2021年退職、EPICDAYを創業。AGAサービス「ヘアテクト( https://bit.ly/3yVy0Tb )」をローンチ。個人のTwitterアカウントはフォロワー1.6万を超える。

西村 そうです。DeNAには2016年に入社したので、お二人より4年後輩になります。当時はマーケティングを担っていて、その経験を元に薄毛の悩みを解決するヘアテクトというブランドを立ち上げました。

大見さんと橋本さんは、お互いの事業を意外だと言っていましたが、後輩である僕も「DeNAの人っぽくない事業を始めたな」と思って見ていたんです。

DeNAで培ったスキルを生かしつつ、ビジョンや想いを大切にするのはすごくいい。お二人に感化されて、僕も後を追わせてもらいました。DeNAは2021年5月に退職したのですが、その有給期間中にサービスを出しました。

大見 有給期間中! 今っぽくていいですね。

自己実現の場として最適だったDeNA

──みなさんは、DeNAに入社したタイミングから起業を考えていたのでしょうか?

西村 僕は全く考えていなかったです。スタートアップの創業期って、雑居ビルの狭い一室に創業メンバーがぎゅうぎゅうになって仕事をするイメージがあるじゃないですか。

僕はそれがダメで(笑)。

でも、コロナの影響でリモートワークが当たり前になり、雑居ビルに集まる必要がなくなったので、新しいことを始めようと思って起業しました。今は、バーチャルオフィスでメンバーも全員がリモートなので、快適に仕事ができていますよ。

──初めて聞いた、起業の壁でした(笑)。元々DeNAには何を求めて入社したのですか?

西村 DeNAには「DeNA Quality」という価値観があって、僕が大切にしたい価値観と一緒だったんです。

人間は弱きに流れるというか、甘えたり逃げたり、人のせいにしたくなったり、といった引力が強いと思うのですが、そこに対して自分にも他者にも厳しく向き合うカルチャーにはしびれました。

──価値観が合致していたのですね。大見さんと橋本さんは、なぜDeNAを選んだのでしょうか。

大見 僕も起業は考えていなくて、最初は外資系のコンサル会社を受けていました。

ただ、シリコンバレーでプロダクトを次々と生み出している人たちのキャリアを見ると、学歴にとらわれていないし、MBAに行った人もほとんどいなかったんです。

つまり、古き良きキャリア像にハマらない人たちが、新しいものを生み出していた。ならば、コンサルではなく世の中の前線にいる人たちに触れた方がいいのではないかと思うようになりました。

当時は、スマホやSNSが急激に伸びていた頃なので、「インターネット事業」「日本発グローバル」をキーワードに企業を探した結果、ヒットしたのがDeNAでした。

橋本 僕も起業はあまり考えていませんでしたね。当時、ものすごい勢いで伸びていたFacebookやTwitterのような、次の世界になり得る新規事業を作りたいと思っていました。

DeNAを選んだのは、誰も経験したことのない新しいジャンルのバッターボックスに最初から立てるから。僕にもチャンスがあるのではないかと思いました。

大胆な抜擢でリーダー格を増やす

──大見さんと橋本さんが入社した2012年は、ソーシャルゲームが爆発的に広まったタイミングですよね。

大見 そうです。モバゲーが急拡大していた頃です。1タイトル20億円規模の売上は当たり前で、しかも1タイトルを15人程度で運営するような刺激的な環境でした。

橋本 まずガラケーで広まって、その後でスマホの時代が来た、というタイミングでしたね。

大見 スマホはゲームの表現がよりリッチになるから利用時間がどんどん伸びていったんです。それを牽引していたのは若手。新卒3年目でも責任者を任されていましたね。

橋本 僕も最初に配属されたゲーム事業部で、いきなり「君は今日からここの主担当ね」と任されたから、背負う金額も責任も最初から大きかったです。

──本当に若手に任せる文化なのですね。

橋本 ソーシャルゲームは「SNS×ゲーム」といった新しいジャンルだから、世の中に「経験者」がいない。それなら情熱があってロジカルに考えられる人に任せようという雰囲気があったと思います。

西村 経験の価値が相対的に低い業界というのもあるし、そもそもDeNAには「年次が上だから優秀」という前提がないんですよね。その人自身を見て抜擢されるというか。

大見 その抜擢を循環させるために、現場で活躍しているリーダー格は、なるべく早く上に引き上げる文化がありました。すると次のリーダーが出てきて背伸びをしながら成長する。だから、大胆な抜擢はよくありましたね。

タフになれるカルチャーが、人を成長させる

──自身に影響を与えたDeNAのカルチャーは?

橋本 一番は、結果にコミットするカルチャーです。

言葉を選ばずに言うと、DeNAはざっくりとした状態で仕事を丸投げされることがよくあるんですね。

山の頂上は見えているけれど、その道順はわからない。それでも、とりあえず目標を立ててゴールに向かっていく強さを持っている。それには、影響を受けました。

大見 僕は、ガラガラポンしてホームランを打つカルチャーが印象的です。DeNAはビッダーズやモバオク、モバゲータウン、ソーシャルゲームなど定期的に大勝負をしてきました。

関連会社のCygamesが米国でダウンロードランキング1位になったときはものすごい熱量で全社で応援していたし、LINEに対抗して無料通話アプリ「comm」で勝負をかけたときも、優秀な人が特設チームに集まって急速に開発を始めていました。

キュレーションメディア事業も急激に成長させて。結果的には社会に対してネガティブな影響を与えてしまったけど、その振り返り方や、その後もう一回立ち上がろうとするバイタリティはDeNAらしかった。それぞれ中の人は大変だったと思うけれど、新しい事業を立ち上げる勢いと熱量には影響を受けました。

橋本 タフだよね。僕なんて、ソーシャルゲーム事業部に配属された初日が「コンプガチャ問題」後の初営業日。新卒でその前まで当事者じゃなかったから分からないことも多かったけど、3日後には「コンプガチャ問題」について話し合うミーティングに参加していました。

安定した会社よりも、山あり谷ありの会社の方が学べるし、タフになると思います。

合理性の裏にある、DeNAの大きな愛

──西村さんは、どんなカルチャーに影響を受けましたか?

西村 僕が影響を受けたのは、DeNAの「こと」に向かうリーダーシップです。世間的にはDeNAの人って合理的で冷たいイメージが強いと思いますし、僕も入社前はそう思っていましたが、その裏にはすごい大きな愛があるんですね。

「みんなにいい顔をしよう」とか、「みんなの希望を叶えよう」とすると、プロジェクトは大体うまくいきません。実際、僕もみんなにいい顔をした結果、失敗に終わったプロジェクトを経験しました。

でも、DeNAのメンバーは「人」に向かわないから、ダメなことに対して当たり前に「NO」を言うんです。何も知らない人から見たら冷たく厳しい人に映ると思いますが、実はそれが一番、全員のハッピーにつながります。

橋本 単に冷たいだけなら放っておくはずで、実はめちゃくちゃ優しいよね。すごく面倒な教育やフォローもやってくれていたし、チャレンジもさせてもらった。

ドライではなくウェットで、むしろ人間に対して異常なくらい興味がある組織なのかもしれない。

西村 そうですね。DeNAの人たちは、自分たちが受けた恩恵を下の世代につなげようとする熱量が強いと思います。

──DeNAはどのようにカルチャーを浸透させていたのでしょうか。

西村 「これを大事にしましょう」という啓発より、「このカルチャー以外は許さない」という厳しさが、カルチャーの浸透に寄与していたように思います

たとえば、DeNA Qualityの一つである『「こと」に向かう』を満たしていないと、周りがすぐに気づくんです。「誰かの意見に気遣って「こと」に向かっていないのではないか」と、はっきり指摘するし、僕も言われました。

橋本 「こと」と「人」、どちらに向かうのもいいと思いますが、一貫性があると会社の特長になると感じます。

だから、DeNAは「こと」に振り切っていたし、社員も世の中に山ほど会社があるなかでDeNAを選んだなら「こと」に向かおうと認識していたのだと思います。

DeNAの良い部分は継承しつつ、自らのビジョンを追いかける

──起業して、DeNAのDNAを受け継いでいると感じる点はありますか?

橋本 受け継いでいるのはたくさんありますが、反面教師にしている面もあります。

DeNAはカルチャーやバリューは分かりやすかったけれど、事業が幅広いが故にビジョンはぼやけているように感じていました。僕は、この会社は何をやる会社なのか、何をやりたい会社なのか迷ったことがありました。

だから、起業後は僕らにしかできないユニークでより具体的なビジョンを作りました。

大見 僕も同じで、ビジョンはかなり意識しました。引き継いでいると思うのは誠実さ。それは、経営スタイルはもちろん組織づくりにおいても大切にしています。

──カルチャーは設定されていますか?

大見 まだなくて、ちょうど言語化しようと動き始めたところです。

創業から2年間カルチャーを設定しなかったのは、ある程度メンバーが揃って「このチームでの成果の出し方」が確立されないうちは、言語化してもほぼ意味がないと思ったから。

DeNA Qualityも作ろうと思って作られたものじゃなくて、事業がスケールして南場さんが採用を全て見られなくなり、違和感を覚えるニューカマーが続くようになって誕生しています。

そのエピソードが面白いのですが、南場さんの違和感を言語化するために、当時の人事部長が南場さんに「嫌な人の特徴」を聞いたそうなんです。

すると出てきたのが、政治的なのが嫌、他人に責任を押し付ける・自分で責任を持たないのが嫌といった特徴。そして、その裏返しがDeNA Qualityになりました。

「好き」を聞かれると曖昧になってしまいがちですが、「嫌」はピンポイントでクリアなんですよね。すごく正しいカルチャーの定義づけをしたんだなと思いましたね。

橋本 今のエピソードおもしろいね。嫌な特徴の裏返しが良い特徴。納得だけど、なかなか思いつかないから、さすがロジカルだなと思った。

──西村さんは起業されて間もないですが、DeNAの経験を生かしている点はありますか?

西村 DeNAの良さは、求める基準が常に高く、自分にも他人にも厳しいところだと思うのですが、そのマイナスの面として新しいチャレンジに対するハードルが上がりすぎてしまう部分もあると個人的に感じていました。

もちろん、それは前提として「愛ある厳しさ」であり、チャレンジは大歓迎ではあるのですが、萎縮してしまっている人も多く見てきました。

だから僕は、弱みも見せて、本音をしっかり話せるようなコミュニケーションを取りたいと思っています。

橋本 厳しいのは「こと」に向かうからこそだよね。僕も今の会社で同じ壁にぶつかっていて、「こと」に向かうと結果に対して「ダメだめなものはダメ」と判断するから、人格否定に捉えられることがあって。

人がダメなのではなく、結果がダメ。それが伝わるよう、人によっては言い方を変える必要もある。それはDeNAにいたから学べたことだと思っています。

大切なのは、本質的なニーズを問い続けること

──DeNAでの経験がみなさんの人生に影響を与えているように、キャリアの起点となる企業や人に出会うためには何がポイントになると思いますか?

西村 二つあって、一つは自分の嫌いなこと、許せないことを明確にすることです。これはすごく大事だと思っていて。

DeNA Qualityの誕生エピソードに似ていますが、自分が大切にしたいことを軸に会社を選ぶと、大体の会社が当てはまると思うんです。だから、嫌いなことを明確にした方が本質的に価値観の合う会社と出会えると思います。

もう一つは、自分に嘘をつかないこと。自分を偽って就活対策をして入社したところで、本当に幸せなのかは疑問です。堂々と対等な目線で、自分に合う会社を選ぶのが大切だと思います。

大見 僕はカルチャーや働き方がフィットするかどうかがすごく大事だと思います。それらは創業者や経営者の思想に紐づいているから、心からリスペクトできるのか、直感的に好きだと思えるのかが重要。

どれだけ変化が激しい世の中でも、人の価値観や考え方はあまり変わらないはずですから。

橋本 10年後の日本に必要なビジネスがわかっている人はいませんが、考えている人はいますよね。

だから、何か大きいことを成したいなら、10年後20年後の社会はどうなっていて、周囲の人をハッピーにし続けるために何をすべきかを考えている人と関係性を持つことが大切。

就活向けにローカライズされたような情報だけをとらえていると、そういう人に出会いにくいと思うので、いろんな情報を取りにいく習慣をつけるといいと思います。

その上で、本質的な社会のニーズを問い続ければ、アンテナが立つので必要なタイミングで必要な企業や人に出会えると思うし、どこでも活躍できる人になるはずです。

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編集:野垣映ニ
執筆:田村朋美
撮影:小池大介

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